「我が国大手銀行株に投資チャンスがあるのか」について考えてみました
我が国大手銀行株に投資チャンスがあるのか
今回のnoteでは我が国銀行株、特にメガバンクとも呼ばれる大手銀行株に投資チャンスがあるのか考えてみることにしました。なぜとりあげてみたくなったかというと、その理由は以下の3点に要約できます。
①大手銀行5グループのPBR(株価純資産倍率)は0.5倍前後と割安に放置されており、昨年央降からの株高下でもその恩恵を十分に享受しきれていない。
②大手行は景気敏感株の代表企業で長期金利上昇のメリットが出やすくいという特徴を併せ持ち、長期金利がバリュー株投資を意識せざるをえない水準まで上昇してきている。
③大手行の四半期決算を見ると、本業で稼いだ利益を示す業務純益が伸長したり与信費用が会社側の想定を大きく下回っていることから今期をボトムとして来期以降の収益向上が期待できる。
まず、大手行の株価と長期金利の動きを確認することにします。日経平均株価は昨年3月のボトムから今年2月中旬には8割がた上昇し約30年6ヵ月ぶりに3万円を回復しました。これに対し、大手銀行5グループの株価はというと同期間で20%強から40%台半ばの上昇にとどまっています。株価の出遅れには、①コロナウイル禍による経済活動の停滞懸念、②先進国中央銀行による金融緩和政策の強化とそれに伴う金利低下、③信用コストの増大による企業業績下振れリスクの高まり等が影響しています。
ところが、コロナウイルスワクチンン接種がスタートし世界景気回復に対する期待が高まると2月後半から米国を中心に長期金利が株式市場で投資家が注視する水準まで上昇し始めます。すると、大手銀行5グループの株価は2月末から約3週間で平均12%強ほど上昇し同期間の日経平均上昇率約4%を大きくアウトパフォームしました。これは、緩やかな長期金利上昇が業績面でプラスとなる景気敏感株・バリュー株の代表銘柄として選好されはじめたことが主因です。
それまでの株価の戻りが鈍かったという側面を見逃すことはできませんが、①大手銀行5グループのPBRが0.5倍前後と激安で配当利回りも4%弱~4%台半ばと魅力的な水準にあること、②2月上旬に公表された四半期(2020年度1~3四半期)決算で2021年度に向けての業績回復への手ごたえを確認できたことは投資家心理に好影響を及ぼしています。
我が国大手銀行株の上昇が継続するかどうかのカギとなるのが長期金利、特に米長期金利見通しです。その理由は、日本株と相関の強い米国株の見方に大きく影響し、景気の回復に伴う緩やかな米長期金利上昇はGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などの主要IT関連企業への集中投資からバリュー株投資へ投資資金の流れを後押しするとみられるためです。
米長期金利の代表的な指標である米10年国債利回りは、昨年8月前半に0.51%まで低下しました。その後、バイデン政権の財政投資拡大による経済回復期待の高まりに伴う金利上昇圧力から年初には1%台を回復します。しばらくは1.1~1.3%の水準で推移しますが、2月末になると1.53%に上昇します。これには、1.9兆ドル規模となる経済対策法案の米連邦議会下院可決、コロナウイルスワクチンの接種が進むことによる経済活動の正常化に対する期待の高まり等が影響しています。さらに、足元の米10年国債利回りは1.6%を挟んでの動きとなっています。2021年末には2%まで上昇を予想するエコノミストもいますが、それでもコロナウイルス蔓延前の2019年夏水準にとどまる見通しです。
ところで、金利敏感株の代表業種は銀行、ノンバンクなどの金融をはじめ、電力・ガス、建設、不動産、電鉄です。教科書的には、有利子負債の多い業種や企業で金利低下が業績に好影響を与える企業の株式を指します。ですが、我が国銀行業、特に大手行においては長期金利の上昇が利ザヤの拡大につながりやすいうえに運用面でもメリットが出やすい数少ない業種であるという側面を併せ持つことには注意が必要です。
次に、株価に影響する2020年度大手銀行5グループ決算を概観してみたいと思います。2月上旬に出揃った2020年度1~3四半期の実質業務純益は合計1兆6293億円と前年同期比4%増となりました。債券の売却益など市場部門が牽引したことに加えて、法人向け取引も足元で回復基調にあることも寄与しています。比較的利回りの高い劣後ローンの増加や、短期融資から長期融資への借り換えが進みコロナ関連融資が下支えしている面も指摘できます。
一方、純利益の合計額は1兆6191億円と同13%減少したものの、5社合計の年度計画に対する進捗率は既に101%に達しています。なお、5行合計の不良債権処理額は7097億円、同3.2倍に膨らみましたが、期初計画の1兆2200億円の6割弱にとどまっています。
こうした決算内容を踏まえ、大手銀行を分析する有力アナリストからも次のようなコメントが出されています。
①2020年度4四半期には将来リスクを考慮した与信費用を計上し、その分来期計画では与信費用の大幅な減少が見込まれる。
②2021年度後半には景気回復の足取りも一層堅固になり、銀行株と総じて相関のある長期金利も上昇に向かう。
③成長産業とは言えないものの、巻き返しの増益決算を期待できることからある程度ポートフォリオに組み込んでいい時期。
大手銀行5グループのマーケットコンセンサスでも、2021年度の純利益予想が2020年度会社予想比28%増となっています。今期の収益がボトムで来期以降増益に転じるという期待が銀行アナリストはもとより投資家サイドでも高まってきています。
なお、数の上では圧倒的に多い地方銀行の決算にも簡単に触れておきます。上場する地銀78行・グループの2020年度1~3四半期連結最終損益の合計額が6033億円、前年同期比18%減。貸倒引当金の計上や不良債権処理に係る与信費用が1992億円と同10%増えたことが響いています。個別行では半数強の40行で連結最終損益が減益か赤字となっています。大手銀行5グループと比較した場合、超低金利のマイナス影響、地域経済の落ち込み等を勘案すると収益環境は格段に厳しいようです。
最後に、今回のテーマである我が国大手行の株価見通しを要約して、今回のnoteを終わりたいと思います。結論を先に言ってしまえば、久方ぶりに大手銀行株に投資する好機が到来していると考えます。その要因は、以下の通りです。
① 緩やかな長期金利の上昇と世界的な景気回復で業績見通しに明るさが増してくている。
②バリュー株が注目されやすい局面を迎えているうえ、大手銀行株の上昇要因となりうるカタリストが発動しすいタイミングにある。
③主要行の株価に先高観が出てくると、年金基金などではこれまで保有比率を落としてきただけに持たざるリスクが意識されやすくなる。
3月のFOMC(米連邦公開市場委員会)では2023年までゼロ金利政策を維持する方針を確認できます。とはいうものの、FOMC参加者が予想する政策金利を示すドットチャートをみると引き上げを支持する参加者が増えているのも事実です。バイデン政権による経済対策に関しても、2022年の米連邦議会中間選挙を意識すると追加継続の必要性が意識され始めています。ということは、当面緩やかな長期金利の上昇が続き、銀行株特に大手行の株価上昇のカタリストになるということではないでしょうか。
オークツリー・キャピタルの共同創業者であるハワード・マークス氏は、顧客向けレターの中でバリュー株投資の本質を紹介しています。銀行のようなバリュー株を好むバリュー投資家は、「(たとえ本質的価値が将来的に増大しないとしても)現在の本質的価値が現在の株価との相対比較で見て高いと判断すればその株式に投資する」と述べています。大手行についてみれば、株価に影響するカタリストが長期金利で上昇すれば株価の上昇につながり、実力である本質的価値に近づくことを示唆しています。
米国銀行株はすでに上昇に転じています。米大手金融6グループ(JPモルガン・チェース、シティグループ、バンク・オブ・アメリカ、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、ウェルズ・ファーゴ)の株価は昨年末からそれぞれ20~35%上昇しており、S&P500の上昇率10%を大きく上回ってきています。
また、我が国主要銀行5グループの株価も足元回復基調にあります。我が国大手行の株価が上昇局面入りし東証の銀行時価総額ウエイトが反転すると、これまで組み入れを控えていた年金基金などは組み入れ比率を引き上げる投資行動をとります。東証1部における銀行の時価総額構成比率は日銀の異次元緩和策がスタートする直前の9.1%(2013年3月末)から2020年末には4%まで低下しました。持たざるリスクが意識されやすくなっていることも我が国大手銀行株の行方を占ううえでは焦点になってきます。
今回のnoteの参考書籍・資料は、「投資で一番大切な20の教え」(ハワード・マークス著、日本経済新聞出版社)、「地銀波乱」(日経プレミアシリーズ、日本経済新聞出版社)、大手銀行5グループ「2020年度1~3四半期決算短信」などです。昨年のnoteに掲載した「地銀株に投資チャンスを見出せるのか」、「バリュー株に投資チャンスがあるのか」も参考になりますので、是非読んで下さい。
Malo, 19th. Mar. 2021
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