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そのままが一番? ~【櫻坂46】音楽番組のあるべき演出とは~

 年末が近くなり、音楽番組が多くなってきた。新曲が出たばかりということもあり、坂道グループもほとんどの番組に出演しており、毎回のパフォーマンスがとても楽しみである。
 先週の『ベストヒット歌謡祭』につづき、今週の『ベストアーティスト2021』と観ていると、出演アーティストの紹介の中に、「最高難度の~」という言葉が何度も登場してくることに気がつく。
 かくいう櫻坂46や日向坂46も、最新曲のダンスは「過去最高にきつい」「最高難度」と紹介されることが多い。AKB48も、一ヶ月間レッスンを重ねてパフォーマンスをしており、激しいダンスが終わった後、息を切らしながら挨拶をしている様子が何回も見られた。
 それぞれのグループごとに、グループ史上最高難度ということなのだろうが、ファンであれば、それは既に知っていることであるし、ファンでない視聴者からすれば、軽い興味から、どれどれ・・・と物見遊山的に観ることになるだろう。
 エピソードトークをする時、「これ面白い話なんですけど・・・」などと言ってから話をすると、聞き手の期待値が上がってしまうことから、その後に続く話が余程面白いものでないかぎり、大抵の場合、面白いと思ってもらえない。
 これと同じで、楽曲披露をする前に、視聴者の期待値を上げてしまうと、その後のパフォーマンスのインパクトが薄くなってしまうのではないだろうか。番組を盛り上げるために、親切で教えてくれているのだろうが、演じる側としても、視聴者としても、余計なお世話だと言えるだろう。
 現に、三浦大知さんやLDH系のアーティストさんがパフォーマンスをする時には、元々ハイレベルなダンスであることは周知の事実なので、改めて、ダンスのレベルについて言及されることはない。
 そのようなこともあり、どうしても、櫻坂46や日向坂46のことが紹介される時に、「最高難度の~」が話題になる度に、ファンとして少し悔しさを覚えてしまう。それは、「まだまだ発展途上のパフォーマンスですよ」と紹介されているように感じるからだ。
 人は、「過去最高にきつい」とか「最高難度の~」という理由でそのアーティストが観たいわけではなく、歌とダンスの融合によって生み出される芸術的なパフォーマンスに酔いしれたいという思いで、番組を観ているのではないだろうか。
 当然のようにダンスはハイレベルなのだが、それすら感じさせないほど、優雅に美しくパフォーマンスされることで、人は感動し、楽曲の世界観やメッセージがより伝わっていくように感じる。

 今回の『ベストアーティスト2021』では、久しぶりに「BAN」が披露されたが、演出として、360度のマルチアングルシステムが採用された。
 あいにく、実際の放送を観た限りでは、それほど魅力的な演出とも思わなかったが、それでも、彼女たちのパフォーマンスが、360度からの撮影に耐え得るという判断があればこそのカメラワークであると考えると、感慨深い。
 今夜の楽曲披露を観て、改めて思ったことは、彼女たちのパフォーマンスには、小手先の演出は似合わないということである。
 有観客のライブで楽曲披露してきた経験から、そのままの状態を見せても、十分に美しく素晴らしい。
 そのため、カメラの演出などが、かえって目障りに感じてしまうのだ。
 今回の番組で導入されていたARなども、アーティストの魅力をまったく生かし切れていない演出で終わっており、最新技術の間違った使用例となってしまったように感じる。
 最新技術の導入を検討するのであれば、観る側に負担をかけるようなものではなく、より本質的な部分に力を注いだ方がテレビの魅力が増していくように思える。
 その一つは、技術的な要素を一切感じさせないほどの「圧倒的な没入感」ではないだろうか。
 東京オリンピックなどの影響もあり、4Kテレビがかなり普及している現在、音楽番組を視聴していると、大人数グループが激しく踊るような場面で、デバイス側の画像処理が追いつかず、ブロックノイズで画面が見づらくなることが頻繁に発生している。4Kの映像をダイレクトに電波にのせることで解消できるはずだが、予算的な問題もあり、そこまで技術が普及していない。そのため、デバイス側でアップコンバートする必要が出てくるのだが、その際に、多人数が激しく踊るような場面では処理が追いつかない。
 これでは、せっかくの4Kテレビの良さが全く発揮されていないと言えるだろう。より画像処理が速いタイプのテレビを購入するという選択肢もあるだろうが、全員ができることではない。このような状況は致し方ないことなのだが、既にある技術を送り手側と途中の経路に適用していくことで解消できるだけに、どうしても歯がゆい思いをしてしまうのも事実だ。
 以前、3Dテレビが流行ったことがあったが、今では余り見かけることもない。VRの技術もあるが、それほど普及せずに、ブームが去ってしまいそうな気配がある。このように、視聴者側に負担をかける技術は、新しもの好きには受けるが、一般的にはそれほど普及しないのが今までの傾向である。
 それに比べ、4Kテレビは、コンテンツさえ揃えば、かなりの没入感が期待できる。4Kテレビを購入することで、すぐにでも、その素晴らしさを享受することができるので、将来性は抜群であると言えるだろう。
 自分の体験でも、地上波放送でドラマや映画、音楽番組を楽しむ際、画像の粗さやブロックノイズなどが気になるので、高品質な映像を提供してくれる動画配信サービスで視聴する機会が増えてきている。この辺りの対策を急がないと、地上波放送の存続が危ういと感じてしまうのだが、いかがだろうか。

 4K放送を前提として、視聴者の鑑賞力に委ねるカメラ演出とすることで、ますます臨場感が増し、アーティストの世界により深く入り込めるような気がする。
 特に音楽番組をわざわざ観ている人たちは、それなりの鑑賞眼が備わっているはずなので、それを踏まえた演出で見せてもらった方が歓迎されるのではないだろうか。
 音楽番組での演出を観る度に、せっかく新鮮で美味しそうな刺身が目の前にあるのに、提供される前に、あれこれと手が加えられて、違った料理として出されているような違和感を覚えてしまう。
 どうしても、そのあたりの認識のずれが、作り手と視聴者の間に、厳然とあり続けるというのが音楽番組の現状ではないだろうか。


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