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名曲「羽衣」の教え ~【欅坂46】「珍しさ」がもたらす観客たちの興奮とは~

 能楽の人気演目に「羽衣はごろも」がある。
 全国にある羽衣伝説をモチーフとしており、とても人気があるため、約200ほどある演目の中でも、トップ3に入る頻度で上演されている。

 能楽は、室町時代から、神社やお寺で上演されるスタイルをとっており、朝から夕方まで、ほぼ丸一日、長い時間楽しめるように演目が組まれていた。大きく分けて、一番から五番まで演目が分類されており、観客たちを飽きさせない工夫が施されている。
 演目の中で、三番目に上演されることから「三番目物」とよばれるものは、女性が主人公の演目であり、優雅で美しい歌と舞が見せ場となっていることから、大変に人気が高く、名曲も多い。
 その中でも、「羽衣」は群を抜いて人気があったようで、昔から何回も上演されてきた。

 『風姿花伝』で知られている世阿弥は、現代でも耳にする数多くの言葉を残しているが、その中に「花」についての記述がある。
 いろいろな場面で、たくさんの意味合いを込めて使われている言葉であるため、一言で説明するのは難しいのだが、それ故に、現代人にも教訓を与えてくれる言葉として有名である。
 「花」について、世阿弥は、次のように記している。

そもそも 花といふに 万木千草において 四季折節に咲くものなれば
その時得てめずらしゆゑに もてあそぶなり 申楽も
人の心にめずらしきと知るところ すなはち面白きこころなり
花と 面白きと めずらしきと これに三つは同じ心なり

~「風姿花伝」花傳第七 別紙口傳より

〔現代語訳〕
花といえば、四季折々に花がある。季節が移り変わり、それに合わせて咲く花があるからこそ、その花は珍しいものとなり、人々も喜ぶ。
申楽(能楽)も同じである。
人は、新しく珍しいものであるからこそ、面白いと感じる。
つまり「花」と「面白い」と「珍しさ」は同じことである。

 人は、「珍しい」と感じるものほど、喜び感動する。
 何か特別なものを目撃することができた、と思えるからだ。
 そのため、世阿弥は、人気曲であればある程、上演の機会を減らすように演目を組み立てていた。人々が観たがる演目を余り上演しないことで、珍しさを演出したのだ。
 特に「羽衣」は、人気曲ゆえ、その上演方法をとられることが多かった。

 欅坂けやきざか46にとって、『不協和音』は、「羽衣」であったように感じる。
 4thシングルとして発売された当初こそ、歌番組などで多くパフォーマンスされたが、歌詞の内容やダンスの激しさから、心身を大きく削る曲であることもあって、披露される機会が少なくなっていく。
 2017年の紅白披露の後、《魔曲》とよばれるようになってしまったこともあってか、ライブなどでも披露されることが極端に無くなった。
 2018年の「2nd YEAR ANNIVERSARY LIVE」で、菅井キャプテンによる代理センターの披露はあったが、長らくパフォーマンスされない時期が続いた。

 しかし、その時は突然やってきた。
 「夏の全国アリーナツアー2019 東京ドーム公演」

 平手さんの状態などもあり、もう『不協和音』を生で観られる時はないだろうと、誰もが思っていた。そんな時に、あのイントロが流れたのだ。

 この時の観客たちの興奮は、今でも伝説となっている。

 『不協和音』の場合は、意図して、「花=珍しさ」を演出したわけではなかったが、それでも、600年も前に書かれた世阿弥の言葉の正しさを思い知らされた瞬間であった。

 欅坂46の楽曲には、名曲が多い。
 こちらも期待していないタイミングで披露されることになれば、また、観客たちは興奮するに違いない。
 それが、いつになるのか、誰にもわからないことではあるが、大いに期待してしまうのは、ファンゆえであろう。

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