そこはかつて「外人森」と呼ばれていた
住宅街の中に「どんぐり公園」という公園がある。今はすっかり「どんぐり公園」で定着しているが、十数年前までは「外人森(がいじんもり)」と呼ばれる雑木林だった。
小規模ながらも自然が豊かで野鳥や虫の宝庫。必然的に、子どもたちに大人気の遊び場だった。
なぜここが外人森と呼ばれていたのかは知らない。
雑木林の端っこを車一台分の道路が突っ切っている。いつもそこから高くそびえる木々を仰ぎ見ていた。
中に入る勇気はなかった。真夏の昼間でも薄暗いのだから、何がいるかわからないでしょう?
あまりに暑いと心惹かれることもある。こんなに濃い木陰は涼しいに違いない。しかしどれほど汗だくになろうとも、中には入れなかった。絶対にいろんな虫がいる!大嫌いなクモもわんさかいるに違いない!
一度だけ我が子に誘われて踏み入ったことがある。好奇心に輝く瞳を向けられては断るわけにいかないもの。
ずんずん入っていく娘の後をそろりそろりとついていく。雑木林の中は8月とは思えないほど涼しくて、汗が収まっていった。
下を見ると、あちこちに黒い塊が落ちていた。何の実だろう?と思い屈んで・・・
!!!!!!!
飛び退いた。
カブトムシが半分にちょん切れたモノが転がっていたのだ。それも気をつけて歩かないと踏んでしまいそうになるほどの数。
どれも大ぶりで立派。
平成の世に、しかも街中に、こんな立派なカブトムシがたくさん生息している(いや、残骸だけど)雑木林があったんだ!
という驚きと、無惨な姿から受けたショック。
これはきっと鳥が落としたんだよね?
それか小動物?
怖いやつじゃないよね?
(怖いやつって何よ?)
誰か正解を教えて!?
いつも子どもたちで賑わっている雑木林が、その日に限って誰もいない。
娘と手を取り合って、足早に外人森を抜け出した。
〜現在〜
半分以上の木を伐採し、遊歩道を敷いてベンチが置かれ、明るく静かな緑地に生まれ変わった。
そして公募の後、どんぐり公園と命名された。
散歩の途中でベンチに座って一息入れる人の憩いの場だ。虫かごを首にかけて走り回る小学生の姿はない。
どちらが良いのだろう?
明るくなったし、防犯上は今の方がいいだろう。
今も子どもたちの遊び場にはなってるけど、自然の濃さはまるで違う。
カブトムシはどうしたろうか。
セミはものすごく沢山いるみたいだけど。音量が凄まじい。
鳥はカラスとオナガ以外はわからない。それは私が見つけられないだけだな。
夏の木陰はオアシス。
※ヘッダーの写真は現在のどんぐり公園です。外人森の頃は空が見えないほど木が生い茂っていて、光がさしていませんでした。