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歩き方について真剣に考察した夕暮れ

学生の時に起こった出来事

寝不足や頭痛、胃もたれは通常通りだし、特別めまいがしていたとか、脚を怪我したとか、そんなことは一切なかった。

なのに、唐突に


歩けなくなった。


ここは駅の裏通り。住宅街の入り口辺り。
歩いている人はそれなりにいるけど車はほとんど通らない。

両足の裏がまるでボンドや鳥餅を踏んでしまったかのように、ピタリと止まってしまったのだ。
どうやら貼り付いたわけではなく・・・


歩き方がわからなくなった。




これは相当にまずい状況だ。

顔が青ざめるのを体感した。血液が頭から下へサァーッと引くのがわかった。
〈血の気が引くってこういうことなんだ〉

足を前後に開いたままの姿勢で周囲を見渡してみる。人々が行き交っている。いつものように。
不自然な立ち方で固まってる私を気に留める人はいない。

道路の真ん中じゃなく端に寄ってるのがせめてもの救い。車が来ても避けることができないから。

どうして歩けなくなったんだろう。
待っていればそのうち歩けるようになる?
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んー、どうしようかな?

誰も声を掛けてこないし、見向きもされない。歩いてる途中の中途半端な姿勢で止まってるから、はた目には怪しいかも。

なんとかして歩きたい。
こんなに歩くことを熱望したことはない。
イメージしてみる。
体をどう使ったら歩けるんだろう?
この足を浮かせて前に出す。
・・・少しだけ浮いた。

!!!!!!!

危ない。
倒れるところだった。
浮かせただけじゃだめなんだ。
もう片方の足で体を支えないと。
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軸足を踏ん張って体重をかけ、
体を支えることに成功した。
ふう。
で、体重をかけていない方の足を浮かせる。
‥‥‥
は?
この浮いた足を、どうやって前に出すの?

歩き方なんて、考えたことなかった。
冷や汗が出る。
足を前に出すのがものすごく難しい。簡単なはずなのにやり方がわからない。

転んだら受け身が取れないような気がするし。顔面強打も後頭部強打も絶対に嫌だ。
〈落ち着いて、大丈夫だから。慌てず慎重に。〉と自分を励ます。
赤ちゃんは初めて歩くとき、何を考えるんだろう?
ーーー参考にならないや。


辺りが薄暗くなった頃、ようやく脳内試行錯誤の末に、小さな小さな一歩を踏み出した。
10cmくらい。
やった!
前進した〜!!

脳内で「歩く」という行為をシュミレーションしながら一歩、また一歩。
ものすごく不恰好な歩き方だ。

余裕が無いくせに〈カタツムリとミミズはどっちが進むの速いんだろう?〉なんて、こんな時ですらしょうもないことを考えたりする。

少しずつ歩幅を広げることに成功し、いつもの歩き方に近づいてきた。ギクシャクしてロボットみたいだけど、いいよ。
立ち止まると再び歩き方を忘れてしまいそうだから、このままを維持して家を目指した。






おかしな歩き方だったろう。すごく恥ずかしかったけど、恥ずかしがってる場合じゃなかった。

玄関の扉を開けて、心底ほっとした。







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