ハーツクライ×デインヒルの“早熟性”は“早枯れ”ではない

 毎日王冠を勝利したサリオスは、母方に『デインヒル』の血をもつハーツクライ牡駒。このパターンには特有の傾向があり、サリオスにもその兆候はありました。久しぶりの復活勝利を機に、ハーツ×デインヒルの牡駒について、あらためてお話ししたいと思います。


ハーツクライ×デインヒル牡駒の早熟性

 この配合はデインヒルの強靭な筋肉でハーツクライの緩さ引き締め、体幹の強さを得る仕組みになっています。競走馬として柔と剛のバランスがとれるだけでなく、若駒のころから“大人びた”体質をもった産駒が出やすいのが特徴です。サリオスも2歳時にGⅢサウジアラビアRC、GⅠ朝日杯FSを勝利。3戦無敗の成績を収めました。


ハーツクライ×デインヒル牡駒の弱点

 デインヒルの効果は、成長曲線の上がり幅を前倒しにする意味合いが強く、根本的な素質の底上げとは少し違います。そのため3歳春を過ぎて古馬との戦いになったとき、スランプに陥ります。“完成度”という、同世代にのみ通用する武器を失うからです。サリオスは3歳秋の初戦で毎日王冠を完勝。この馬なら配合の壁を突破できるかもしれないと思わせました。しかしその後の成績をみると、やはりデインヒル特有の傾向に悩まされていたように感じます。


早熟であっても早枯れではない

 ただ重要なのは、“早熟”であっても“早枯れ”ではないということです。サリオスとおなじ、ハーツ×デインヒル仲間のカテドラルは、3歳春にアーリントンC2着、NHKマイルC3着と好走。そのあと低迷期に入り、2年間は結果が出ませんでした。しかし5歳になると成績が安定。重賞好走がつづき、京成杯AHで久しぶりの重賞勝利を挙げました。
 ハーツクライ自体は、じっくりと力を付けて5歳で本格化を迎える産駒を多く出す種牡馬です。早熟型で頭打ちに見える産駒でも、辛抱の時期を乗り越えた先には、第2のピークがあるのかもしれない。カテドラルがみせた可能性をサリオスが実証したことで、デインヒルもちの未来はとても明るくなりましたね。
 ちなみに、現在ちょうど壁にぶつかっていると思われるがグラティアス。3歳春に京成杯を勝利して以降、もどかしい結果が続いています。まだ4歳秋ですから、そろそろ殻を破る時期が訪れる予感がします。


前進気勢スイッチ

 カテドラルにとって、非常に大きな転機だったと思われるのが、4歳の夏に使ったの朱鷺S。長いことマイルを使われていた馬が、距離を短縮させ、初めて1400mを走りました。レースは勝利という最高の結果でしたが、そのあとの5歳時の好走みると、どうもそれ以上の恩恵をもたらしていたように感じるのです。いつもより速い流れに身を置いたことで、前進気勢が目覚める。覚醒のスイッチが入ったのは、このタイミングではないでしょうか。
 今年、サリオスは距離を短縮させて高松宮記念に出走しました。競走馬にとって貴重な1戦を、15着という結果で消費したことが有意義だったとは言いません。ただあのレースと今回の復活には、深い繋がりがあるのではないかと考えています。



 ハーツクライ×デインヒルについては以上です。ここからは話が少し脱線しますが、似たような事例を紹介したいと思います。


ハーツクライ×ニニスキ牡駒

 母方に『ニニスキ』の血をもつハーツクライ牡駒は、該当馬8頭中7頭が勝ち馬。サリオスのほかに、ヴィクティファルス(スプリングS)、ダノンベルーガ(共同通信杯)、ワーケア(弥生賞2着)をだすスーパーニックスです。驚異的な相性の良さに目がいきがちですが、サリオスを除けば、大きな実績はすべて3歳春まで。ハーツ×デインヒルの傾向をさらに強めたような成績になっています。もしかしたらこのパターンも、デインヒルもちと同様になる可能性はあるかもしれません。4歳のヴィクティファルスはこれからが第2のピークなのか、クラシックを沸かせた3歳のダノンベルーガはここからどういう成長曲線を描くのか、いろいろと気になります。


ダノンザキッドも仲間?

 2歳時に新馬、東京スポーツ杯2歳S、ホープフルSと3連勝を飾ったダノンザキッド。3歳以降は勝利がありません。今回の毎日王冠を含め、良い走りを続けてはいますが、かつての強さと比べると、物足りなさを感じるところです。この馬はジャスタウェイ産駒なので、祖父にハーツクライをもちます。そして母方にはデインヒルの血が。ゲートも突き破ったことですし、そろそろ殻を破ってほしいですね(苦笑)


母の父ハーツクライ産駒も?

 ロードカナロア産駒のケイデンスコールは、新潟2歳Sを勝利。翌年のNHKマイルCでも2着に好走しました。しかしその後は長いスランプに陥ります。4歳の秋に距離短縮して、1400m戦に2度出走。そのあと5歳初戦となる京都金杯で優勝すると、中山記念2着、マイラーズC優勝と突然の大復活を遂げています。これ、カテドラルの戦歴とめちゃくちゃ似てませんか? ケイデンスコールはカナロア産駒ですし、デインヒルの血ももちません。ただ興味深い点がひとつ。母の父がハーツクライなのです。母の父ハーツ産駒がすべてこうなるとは思いません。しかしケイデンスコールに関しては、カテドラルやサリオスとおなじカテゴリの馬ではないかと感じます。

 そしてもう1頭、近い雰囲気を纏った母の父ハーツクライ産駒がいます。3歳時にGⅠを3勝。年度代表馬にも輝き、このまま歴史的名馬への階段を一直線に駆け上がっていくかと思われました。しかし4歳になった今年は結果がでておらず、巷では早熟説も・・・。個人的な願望も込めて言いますが、この馬は5歳になった来年に一皮むけ、真の強さを纏った姿で復活すると信じています。もちろん今年の有馬記念で復活してくれるに越したことはないですけど。距離短縮で覚醒スイッチを入れることを考えると、22年有馬記念→23年中山記念→大阪杯のローテが理想ですが、さすがに中山記念は現実的ではないかな😅


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