30年来の仕事▶Yuning
「横浜読書会KURIBOOKS」の存在を知ってもらいたくて、
このブログを始めました。
ゆるく、長く、続けることが目標です。
ノンフィクション横浜読書会KURIBOOKSのファシリテーターを
担当しているYuningです。よろしくお願いします。
さて、前回は命懸けのちょっと重たい話でしたので、今回はオタクに走ります。この秋は、追いかけてるご長寿シリーズの新刊ラッシュがあり、まことに豊作の秋でございました。ほくほく。
まずは17年ぶりの京極堂シリーズの新刊である「鵼の碑」(京極夏彦著)、ついで箸休め的に「名探偵コナン」の104巻、そしてこの「陰陽師 烏天狗ノ巻」(夢枕獏著)です。どれも30年にわたる息の長いシリーズであり、陰陽師シリーズに至っては、最初の短編である「玄象といふ琵琶鬼のために盗らるること」の雑誌掲載からなんと37年がたちます。
わーお、すごい!
***
最新刊である「陰陽師 烏天狗ノ巻」もとてもおすすめなのですが、シリーズの中でも特に私の印象に残っているのが、2014年刊行の「陰陽師 蒼猴ノ巻」に収録されている「蛇の道行」というお話です。
恨みを残して死んだ女が転生を繰り返しながら相手の男を探し求め、今は互いに蛇と鼠の姿になって、まさに女(蛇)が復讐を遂げようとしている場面に晴明と博雅が行き会う。晴明は、男(鼠)を庇うように女の前に立つが、「調伏して消し去りたいなら、お好きになされませ。我は何度でも同じことをするでしょう…」と女が言うのを聞き、押し黙って葛藤します。
やがて晴明は苦しげに息を吐き、女を止めようとしていた手を離し、目当ての鼠を咥えた蛇はあっという間に姿を消してしまいました。
天才陰陽師である安倍晴明は、あまり葛藤しないタイプの主人公です。強大な力で妖物を調伏し、飄々と世を笑い飛ばしながら、風流な屋敷で博雅と酒を飲んでいる。それだけに、蛇が姿を消すのを無言で見届けながら、やがて「これで、よかったのかな、博雅よ…」と低く小さな声で問う晴明の姿は、長いシリーズの中で最も「人間らしい」彼の姿でした。
夢枕先生が、どうしてこの話でだけ「葛藤する晴明」を描いたのかはわかりません。しかし、ゆえに本作は私に強い印象を残したのです。
***
人々が「物語」を求めるのは、登場人物たちと共に葛藤し、共に成長するためであると思います。だから、最初から完璧超人のキャラクターになど魅力はない。長く続く人気作品とは、作者がその絶妙な匙加減をぜいたくに振る舞い続けてくれる美食であり、ファンとしては、いつまでもそれを味わっていたいと願うのでした。
というわけで、私たちの読書会もそんな30年を目指したく、
皆さまのご参加をこころよりお待ちしております。
メリークリスマス!
お相手は、Yuningでした。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?