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あなたの吐いた息を吸う▶Yuning

みなさま、こんにちは。

しばらくは春の雨模様ですが、いかがお過ごしでしょうか?
私は卒業卒園の季節となり、涙腺が緩む日々です。


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さて、本日の一冊はこちら。

内田樹×安田登 『変調「日本の古典」講義』

普段はあまり読まない対談ものでしたが、面白かったです

本を読むのが好きな人というのは、「目に見えないものを想像的に見る」ことを楽しめるタイプの人だと思います。動物なら、腹が満たされたら巣穴でゴロゴロしているが、人間は洞窟の壁に絵を描き始めた。「目にしたことはあるが、今目の前にあるわけではないもの」を思い出しながら壁画を描いた時、人間は過去や未来を「想像的に」旅する能力を得ました。

…とまあ、この辺は教科書でも教わる内容なのですが、この「変調「日本の古典」講義」では、それについて面白いことが書いてありました。


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「ネガティブハンド」って聞いたことありますか?
これのことです。↓

アルゼンチンにある「リオ・ピントゥラスの壁画」より


洞窟の壁画でみられる描画技法の一つで、口の中に顔料を含んで壁の前に手を置き、そこへ向かって顔料を吹きかけると、抜き型のように手の形が壁に空白として表現されます。洞窟の壁画を見ていると、動物たちは線や塗りつぶしなどで陽画(ポジ)として描かれる一方、なぜか手だけが陰画(ネガ)として表現されていました。

あれは不思議だねえという話になり、能楽師である安田氏は、「ネガティブハンド」を描いた太古の人々は、手の形というよりも「息」を残したかったんじゃないかと語ります。 というのは、呼吸を自在にコントロールできる動物は非常に少なく、実は人間と鳥類だけなのだそうです。同じ哺乳類でも、犬や猫にはできません。そして、呼吸をコントロールできる人間と鳥類は、歌う能力を得て、人間はさらにそれを言語への進化させました。

それと同時に、複数の人間で「息を合わせる」という技が生み出され、現生人類の祖先たちは、「せーの」と息を合わせて石や槍を投じることで、マンモスなどの大きな獲物を倒せるようになりました。 あの洞窟の壁に残された無数の「ネガティブハンド」は、そのことを記念したものなのではないかという本書の内容を読んで、「Oh!」と腹落ちするものがありました。


***


太古の時代、人々は呼吸をコントロールすることで共に歌い、語らい、
そして仲間と息を合わせることの喜びと力強さに気付いたのです。
それは、まさに人間を人間たらしめる一歩でした。


…え?あなたも誰かと息を合わせたい?
それでしたら、ぜひ読書会へおいでください。



それでは、恵みの雨が田んぼを潤す日に。

【投稿者】Yuning


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