第81回考える読書会『幽霊たち』
こんにちは。考える読書会のファシリテーターをNaokoさんと共同で務めることになった港町Kです。第81回考える読書会の開催報告です。
今回の課題本はポール・オースターの『幽霊たち』でした。今回の参加者は10名(女性5名・男性5名 初参加1名)でした。かつて柴田元幸さんが日本にオースターを紹介した時に“読まなくてはいけない雰囲気“に押されて読んだという参加者の方もいらっしゃいましたが、『幽霊たち』で初めてオースターの作品に触れたという方が大半でした。
この作品は「ブルー」という名の私立探偵が「ブラック」と呼ばれる対象の生活を24時間尾行するという探偵小説の雰囲気を醸し出しながらも問題は解決されず読者に“片付かない現実“を残したまま終わる不思議な作品です。参加された皆さんが持たれた読後感として“読みやすくて面白い。でも何が面白いのか自分の中で腹落ちしない“、“オースターという作家はとっつきづらい作家だと思っていたけど、意外と読みやすかった“など、100ページ強という分量もあってか、読みやすいという感想を持たれた方が多かったようです。
ディスカッションでは読みやすさの中にも作品に残された多くの疑問に焦点が当てられました。特に登場人物の名前が色で表現されている点、タイトルにもなっている『幽霊』とは何かという点に関してディスカッションが盛んに行われました。
色についてのディスカッションは“作品全体が頭の中ではモノクロで再生され登場人物だけに色がつくお洒落なビジュアルの作品だった“という意見や“海外小説は名前が覚えづらいので、むしろわかりやすくてありがたい“という意見がありました。その中で“ゴッホなどの絵画も見る角度によって色は違って見える。そのような効果を期待したのでは“という意見がありました。本作品では監視する側とされる側の境界がある時点でなくなってしまうような感覚も魅力の一つです。青が見る角度によっては黒に見え、またある角度では白に見えるように人間も角度を変えると自分は他人でもありうるということを表現するために人物の名前を色で表現したのかもしれないという気づきを得ることができました。
幽霊の議論では“ストーリー自体が幽霊たちの世界なのでは“という意見や、”会話に鍵かっこが使われておらず登場人物同士の会話も実は自分自身との会話なのでは“というような意見が出ました。また、”この物語は語り手がブルーであるともオースター自身であるとも解釈できる記述が混在している“という意見があり、この語り手の不在性こそが幽霊なのではないかということに気づきはっとしました。
他にも“ブルーはその後どうなったのか”や“随所に登場する偉人たちの含意は”など多くのトピックをディスカッションし、あっという間に2時間が過ぎました。ディスカッションを終え“どうやったらこんな小説を発想できるのか”や“疑問に思っていたことがわかったような気がしてすっきりした”というような声があがっていました。
最後の感想を述べあう中で或る参加者の方が“一人で読んで楽しい本ではなく、みんなで読んでこそ楽しい本”という感想を述べてらっしゃいました。会の中では探偵小説としての読み方やメタフィクションなどポストモダンを補助線とした読み方など皆さんから幅広い読み方が提示され、共感できるご意見でした。
考える読書会では作品に答えを出すために考えるのではなく、考えた意見を交換することで作品の解釈を参加者全員で豊かなものにしています。多読家も寡読家も週末読書人も様々な読書遍歴を持つ本好きが集まる考える読書会で一緒に知的好奇心を解き放ってみませんか。