正しい道の迷い方▶Yuning
「横浜読書会KURIBOOKS」の存在を知ってもらいたくて、
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担当しているYuningです。よろしくお願いします。
さて、今日ご紹介するのは、昆正和氏の「山で正しく道に迷う本」。
私がこの本を手に取ったのは今から8年前のこと。実はその少し前に、山で「正しく迷う」ことができなかったばかりに、奥多摩で遭難事故を起こしてしまったのです。
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その日は単独行で、奥多摩駅から鷹ノ巣山(1737m)を目指しました。季節は3月下旬、天気は薄曇りだったように記憶しています。無事に登頂してゆっくりと下山し始めた頃、曇り空からは雪が降ってきました。気にせず歩いていると、やがて雪が薄く積もり始めて、段々と足元が見えにくくなっていく。奥多摩のそのエリアは、もともと登山者の多い所ではありません。やがて私は尾根筋の登山道を見失い、誰の足跡もないブナ林の中に迷い込みました。山では「迷ったらわかる所まで戻る」が鉄則です。それなのに、思わぬ雪で下山を焦る気持ちもあり、山地図を睨みながら、登り返すよりはこの下にあるはずの林道まで降りるのがよいと判断しました。判断…してしまいました。これが、魔が差した瞬間だったのです。
山での死因は、高山では岩場での滑落、低山では沢筋に迷い込んで脱け出せなくなることがその多くを占めます。下にあるはずの林道を目指した私は、まさに後者へ向かって突き進んでいました。なぜなら、そもそも現在地の把握が間違っていて、いくら下っても林道などなかったからです。段々と険しくなっていく傾斜、道を下るというよりもほとんど転がり落ちていくような状況で、カメラなどの荷物を紛失。やがて辿り着いたのは細い沢と、とても降りられないような高い滝。滝の横の山肌にへばりつきながら、ああ、これ以上はとても進めない…と観念したのが17時頃。周囲はすっかり暗くなっていました。
そこで110番して救助要請したのですが、寒さのせいで携帯のバッテリーは残り15%ほど。それでも奥多摩の警視庁山岳救助隊はプロ中のプロで、最低限のやり取りで私の居場所を突き止め、救助要請から約6時間半後に私を見つけてくれました。その頃には雪に加えて霧も深く、まったくお互いの姿が見えませんでしたが、緊急用ホイッスルの音で居場所を知らせることができたのです。私がいたのは滝つぼ横の険しい岩場の中腹で、足を踏みかえれば滑落しかねないほど足場は小さく、救助隊員らはかなり登り返した場所からビレイの支点を確保し、懸垂下降で降りて来てくれました。
その時、私は挙式から2ヶ月たったばかりの新婚だったのですが、夫に連絡をしたのは救助隊と合流できてからでした。携帯のバッテリーが少なかったこともあるし、その場にいない彼に言って心配をかけても仕方ないと思ったからです。救助隊と共に岩場を登り返して広い場所に出た時、ようやく彼に電話をかけました。しかし留守電だったので、「山で遭難したけど、救助隊と一緒だから大丈夫」とだけ伝言を残しました。
雪の深夜に道もない尾根筋をひたすら下って、麓の駐在所に着いたのが午前4時ごろ。調書を取りながら、用意してもらった焼きおにぎりと豚汁が泣くほどおいしかった。「あー、死にかけたんだな…」とその時になって震えが来ました。それからパトカーで奥多摩駅に送ってもらい、「これにめげずにまた奥多摩に来てね」と見送られて、泣きながら始発電車で帰りました。
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長くなりましたが、その少し後に出会ったのがこの本です。様々なケースの遭難事故について解説していますが、一番腑落ちした部分はこれ。
「迷ったかもしれないと思った時は、その場に座って、ゆっくりと水を飲むこと。そうすれば冷静になって、おかしな判断をせずに済みます。」
まさにこれです…!あの日の私には、この冷静さが欠けていました。地図をちゃんと見ていたはずなのに、魔が差したように行ってはいけないほうへと行ってしまった。
あれから、自分の判断というものが今ひとつ信じられなくなりました。またあの時のように魔が差していないかという疑心を拭いきれないのです。それまで大丈夫だったからといって、今以降も大丈夫だという保障などまったくないのだと痛感させられました。
焦っている時ほど、とにかく座って水を飲み、深呼吸すること。
人生の様々な場面で、きっと役に立つ知恵だと思います。
本を通じて、人生の知恵を手に入れることができるのも読書会。
皆さまのご参加をこころよりお待ちしております。
お相手は、Yuningでした!
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