元ネタに出会う旅 ▶Yuning
みなさま、こんばんは。
わたしはせっかちなので、短編集が好きである。
さくっと読めるので、次に本を開いた時に以前の内容を忘れることもなく、あっと驚くオチを堪能できる。
それで翻訳ものの短編集を読んでいた時、別の意味であっと驚く発見があった。興奮のあまり、仕事中の夫にすぐLINEを打ったほどであった。それは、1946年に発表されたイギリス作家の短編と、宮崎駿氏はこの作品を読んでいるに違いない…!という確信であった。
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私が読んでいた本は、S・キング他が編者をつとめたホラー短編集『死んだら飛べる』(竹書房文庫)だ。
飛行機にまつわる「こわい話」を集めたこの本は、古いものはアーサー・C・ドイルの「大空の恐怖」(1913年)から、キング自身の書き下ろし作品(2018年)まで、100年をこえる時空を軽々と超越する。
その中で、私を驚かせたのは、ロアルド・ダールの「彼らは歳を取るまい」(They Shall Not Grow Old by Roald Dahl)であった。ダールは、大戦中に戦闘機パイロットとして活躍したイギリス人作家で、『チョコレート工場の秘密』(映画:チャーリーとチョコレート工場)の作者として有名である。「彼らは~」はダールが1946年に発表した短編だが、ジブリの「紅の豚」を観たことがある人ならば、あっと息をのむことであろう。
――「紅の豚」の“あの場面”が、そっくり登場するからである。
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大戦末期、イギリス空軍のパイロットであるフィンは、中東でヴィシー政権のフランス軍と戦っていた。ホーカー・ハリケーンに乗った彼は出撃したまま戻らず、仲間は彼が戦死したものと思い込む。しかし2日後、フィンのハリケーンが突然基地に帰還し、驚く仲間たちに「どこにいたんだ」と詰問された彼は、「…何を言ってるんだ?僕は1時間の偵察を終えて戻って来ただけじゃないか」と困惑している。呆然とする仲間たち。
その後、激しい空戦中に、フィンは突如記憶を取り戻す。
あの日、快晴だったはずなのに、彼は突然「白くて分厚い雲の中」に入り込み、どうやっても脱け出すことができなかった。悪戦苦闘に疲れた彼は少しの間うとうとして、目を覚ますと、「ただ純粋な青の中」にいた。眩しいほどに明るく澄んでいるのに、太陽は見えない。気がつけば、はるか高い空を無数の飛行機が一列になって飛んでいく。そこには、あらゆる時代の、あらゆる機種の飛行機がいる。フィンの機体も吸い寄せられるようにしてそこへと向かっていくが、彼にはどうすることもできない。
やがて、彼ははっきりと悟る。
これはみんな、戦争で死んだパイロットたちなのだと――。
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…いかがだろうか?
これが、「紅の豚」のラスト近く、決闘の前夜で眠れないというフィオに、ポルコが戦争中の体験として話して聞かせるあの場面の元ネタでなくて何なのだろう。フィオというヒロインの名前も、「彼らは~」の主人公フィンと似ている。宮崎さんは、絶対にダールのファンであろう。
ジブリの中でも大好きな「紅の豚」と、同じく(そのためにアメリカ留学に行っちゃうぐらい)大好きなS・キングが選んだ1946年の短編小説との間にあるつながりに、私はいたく感動していた。何となしに本を読んでいても、こういう発見があるから面白い。
ちなみに、同じくオタクな旦那も、「おお!すげえ!」とリアクションしてくれた。その興奮を、みなさまにもお届けしたかった次第である。
秋の長夜にお気に入りの一冊を。
それでは、読書会でお会いしましょう!
【投稿者】Yuning