恩田陸の魅力▶youco
その本を読むにはある種の心構えが要る…私にとって、恩田陸さんはそんな作家です。
全体的に靄のかかったような、昼なお暗い森の中を歩いているような、そんな文章。目を凝らして読み進めているうちに、いつの間にか、恩田ワールドのど真ん中にいる。そうなると、現実世界のなにもかも放り出して、この世界から離れたくない…と、寸暇を惜しんで読んでしまうのです。
それでいて、いやそれだからなのか、立て続けに3冊、4冊読んだかと思うと、年単位で手に取らなくなってしまう…。
ここ最近、5日ばかりの間に恩田陸さんの本を4冊読みました。記録を調べてみると、その前に読んだのは4年前で、やはり立て続けに3冊読んでいました。
初めて出会った恩田陸作品は「夜のピクニック」です。薦められて読んだのですが、今思うと、入門編にちょうど良かったのかもしれません。こちらは私の読書記録にもないくらい以前(10年以上前なのは確実です)に読んだので、全体の雰囲気と大まかな内容しか覚えていませんが、暗い森を分け入って読み進めるような雰囲気ではなく、ナイトハイクをする主人公(高校3年生)と一緒におしゃべりを楽しみながら歩いているような、そんな軽めのテンポで読めました。
多くの方がご存じでしょうが、恩田陸さんは、SF、ミステリー、冒険小説、ホラーなど、ジャンルに囚われることなく、数多くの作品を書いておられます。「夜のピクニック」は、青春小説という感じでしょうか。
私は、恩田作品のタイトルに惹かれて購入することが多いのですが、そうして手に取った作品はノスタルジアを感じさせるミステリーが多い気がします。(MY BESTタイトルは「蛇行する川のほとり」です。タイトルが好きすぎて、5年も積読棚に飾ってしまいました。)
直近で読んだ作品は、「黒と茶の幻想」。
これは、学生時代の友人グループ男女4人、年齢は40手前、みんなで旅行に行こうということになりY島(おそらく屋久島)に出かける話です。上下巻を4部に分け、1部を一人の語り手が語り、次の語り手へリレーするという構成になっています。
都会に生きる4人が、大自然の中で自分と向き合い、過去と向き合い、そして傍らの友人たちに思いを馳せる…。利害関係のない旧知の間柄で繰り広げられる会話は、大人になった今ではなかなか経験できるものではなく、特に”美しい謎”をああでもないこうでもないと話し合ういくつかのシーンは、私もそこに参加したい!と思ってしまいました。
しかしながら全体的には、昼なお暗い森の中を歩く恩田ワールドでして…。決して明るくハイキングしながら無駄話を楽しむお話ではないのでご用心を。
この作品における恩田さんのすごさは、4人の書き分けに現れています。それぞれの性格・考え方・他人との関わり方…ひとりの人間が内包するもののすべてを、4人分、4パターンで描いてくれています。それぞれの章を読むと、共感できる部分もあれば、思考回路がさっぱりわからない、という当たり前の感想を抱きます。
現実に他人と関わる時もそうですよね。どんなに仲が良くてもすべてを理解することは不可能でしょう?けれど、こういう人間もいる、という確かな説得力があるのは、恩田さん自身が腑に落ちているからなのでしょうね。今まで出会った人々の中から拾い集めたものなのか、はたまた恩田さん自身がこれらすべてを内包する複雑な方なのか。
靄のかかったような、けれども美しい文章の森の中を分け入る勇気を持つのは、また何年後かになるのでしょうか。もしかしたら、これを書き終えてすぐに、まだ見ぬ恩田作品を買いに走っているかもしれません。
皆さまの参加を心よりお待ちしております。
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【投稿者】youco
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