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03 岬の約束


 

プロローグ 孤独な生活


康介はマンションの一室で、一人ぼんやりと窓の外を眺めていた。東京の夜景が広がるその窓から、彼の心にはかつての夢と現実のギャップが浮かび上がってきた。大学を卒業し、上場企業に就職した当初は、幸せな未来が待っていると信じていた。しかし、現実は彼の期待を裏切った。

理不尽な上司との衝突が原因で、その会社を辞めざるを得なくなった。今は中小企業で働いているが、給料は減り、まともな退職金もない将来に、不安は増すばかりだった。都心の家賃はバカ高く、将来のためにマンションを購入したが、いまとなってはその返済が康介の肩に重くのしかかっていた。いっそマンションを売ってしまおうとしたが、不動産が騰がる時代はではなく、相当な残債が発生することがわかった。多忙な仕事へのストレス、経済的な将来不安、康介はいつからか不機嫌になっていた。つい妻の由紀にも声を荒げることが多くなった。子供が生まれても、将来のことを考えると素直に喜べなかった。

妻の由紀もまた、働いていた。しかし、夫の不機嫌を目の当たりにすると毎日が憂鬱で暗くなった。美優が誕生しても家族団欒の時間を取ることができず、次第にストレスを抱えるようになっていった。家庭内の会話も減り、すれ違いが続く日々。

康介はなんとか状況を改善しようと努力したが、忙しさに追われ、結局うまくいかなかった。ある日、由紀は耐えきれなくなり、娘の美優を連れて田舎に帰ってしまった。康介は突然一人になり、空虚な日常を送ることになった。美優の笑顔、由紀の優しい声、それらがすべて遠い過去のものに思えた。

康介は窓の外を見つめながら、過去の思い出に浸った。大学時代、親友の誠と共に訪れた岬の風景が脳裏に浮かんだ。あの時、由紀にひとめぼれして恋に落ちた。そして結婚。人生であれほどの喜び、感激はなかった。それが今、心はすさび情けない状態になってしまった。いったい自分の何がまずかったのか?と康介は自問した。 

岬は、彼と由紀が出会った場所だった。康介は心の中で、その岬をもう一度訪れてみようと思った。そこに行けば、何かがわかり、変わるかもしれない。少なくとも、自分自身を見つめ直すことができるはずだ。

康介は長い有給休暇をとった。上司は信じられないようなイヤな顔をしたが、どうってことはないと思った。この会社に入ってから一度も休んだことがなかった。美優が生まれた時だって緊急の仕事が入り休まなかった。日曜祝日に出社しても手当がつかなかった。いろいろ思い出すと腹が立ってきた。もうこんな会社はどうでもいいようにさえ思えてきた。

康介は少しの荷物をまとめ、バスに乗って岬へと向かった。東京の喧騒から離れ、彼は静かな場所で自分の心と向き合うつもりだった。電車を乗り継ぎながら、次から次へ移り変わる景を眺めていると、彼の心にも少しずつ変化が訪れ始めた。康介の心が、こんなにものびのびと落ち着いた気持ちになれたのは久しぶりのことであった。

この旅が、康介にとって新たなスタートとなるのか、それともただの逃避で終わるのか。それはまだわからない。しかし、彼は一歩を踏み出すことを決意した。その一歩が、彼の未来を変えるきっかけとなることを信じて。

 

2 再生への旅、岬へ


バスは静かに岬の村へと向かっていた。康介は窓の外を見ながら、心の中で新たな決意を固めていた。過去の自分と向き合い、未来を見つめ直すためにこの旅が必要だと感じていた。

村に到着すると、康介はまず宿泊先を探した。昔訪れたことのある民宿がまだ営業していることを思い出し、そこに向かった。受付にいる老夫婦は、康介のことを覚えており、温かく迎えてくれた。

「久しぶりだね。前に来たのは大学生の頃だったかしら?」老夫婦の優しい言葉に康介は心が和んだ。
「そうです。あの時は友人と一緒でした。今回は一人で来ました。」部屋に案内されると、康介は荷物を置き、しばらく休むことにした。窓から見える海は、かつてとなんら変わらず広がっていた。潮騒の音が遠くで聞こえていた。

翌朝

康介は早朝に起き、海岸を散歩することにした。波の音が心地よく響き、彼の心を落ち着かせた。散歩していると、ふと見覚えのある顔に出会った。親友の誠だった。

「康介!?こんなところで会うなんて、ほんとに!」
誠は驚いた表情で康介に声をかけた。
「誠、お前もここに来てたのか。久しぶりだな。」

二人は再会を喜び、岬の風景を背景に話し始めた。誠もまた、仕事のストレスから解放されるためにこの場所を訪れていた。

「俺もいろいろあってな。ここに来ると心が落ち着くんだ。お前も同じ理由か?」

康介は誠にこれまでの出来事を話し、由紀と美優が田舎に帰ったことを伝えた。誠は静かに聞きながら、康介を励ました。

「康介、俺たちはもう中年だ。若いとは言えないが、まだ、これからどうにでもできるさ。お前も由紀さんとの関係を修復できるかもしれない。」

康介は誠の言葉に少しの希望を感じた。誠と一緒に過ごす時間が、彼にとって大きな力となった。好き放題やっていた大学時代が蘇ってくるようであった。

昼下がり

誠の提案で、二人は岬の灯台を訪れることにした。灯台の頂上から見える景色は絶景で、康介の心をさらに癒してくれた。風に吹かれながら、彼は自分の人生について考えた。

「康介、お前はどうしたいんだ?将来のこと、由紀さんのこと、全部含めて。」
誠の問いかけに、康介はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「俺は、由紀ともう一度やり直したい。美優とも一緒にいたい。だけど、それにはまず俺自身が変わらないといけないんだ。」

誠は康介の言葉にうなずき、励ましの言葉をかけた。

「そのためにも、まずは自分を見つめ直すことだな。ここでの時間を大切にしよう。」

康介は誠の言葉に感謝し、再び自分を見つめ直す決意を固めた。

 

 

3 岬の約束


康介と誠は民宿の部屋で向かい合い、酒を酌み交わしていた。久しぶりの再会に心を躍らせながら、二人はお互いの近況を語り合っていた。康介が自分の現状について話すと、誠は真剣な表情で聞き入っていた。

「康介、俺たちは大学をでてから働いて、随分とたった。これからどう生きていくか、真剣に考えないとな。」

誠は康介の目を見据え、静かに言葉を紡ぎ出した。

「康介、前から言おうと思ってたんだが、一緒にラーメン店をやらないか?大学時代、お前の作るラーメンは最高に美味かった。俺はラーメン好きであちこちで食べあるいたが、お前の作ったラーメンが一番うまい。あの味をもう一度皆に味わってもらいたい。」

康介は驚きの表情を浮かべた。

「あのラーメンはお爺さんのレシピだよ。うちのお爺さんはラーメン店をやっていてね、結構に常連客がついて流行っていたんだ。でも、親爺は後を継がずに公務員になったんだよ。」

「ラーメン店か…確かに、俺の作るラーメンを喜んでくれる人が多かったな。でも、今のサラリーマン生活を捨ててまで、そんな冒険に出るのはリスクが大きい。」

誠は康介の肩を軽く叩き、熱く語り続けた。

「康介、俺らは今のままサラリーマンを続けても、未来はないぞ。年功序列の時代は終わった。このままサラリーマンをやっていてもじり貧状態になるだけだ。特に東京は持たざる者にとっては、過酷な場所だ。持家も賃貸もバカ高い。教育費も凄く高い。見た目はよくても実質は悲惨だぞ。俺たちは自分たちの力で未来を切り拓くしかない。」

誠の言葉は康介の胸に深く響いた。彼の情熱と確信が、康介の中に眠っていた希望を呼び覚ました。

「分かった、誠。一度考えてみるよ。でも、その前にもう少し時間が欲しいんだ。」

誠は頷き、康介の決断を待つことにした。二人はその夜、遅くまで語り合い、昔の蛮カラ騒ぎに話が咲いた。康介は久しぶりに心から笑い、燥いだ。

翌朝

翌日、康介と誠は観光バスに乗って岬巡りをすることにした。バスの中から広がる海岸線の風景が、康介の心を和ませた。幸せそうな人たちと一緒に回れる、この一瞬が幸福に思えた。彼は大学時代のことを思い出しながら、由紀との出会いと恋愛を次々と振り返っていた。その時、車内に懐かしい歌が流れてきた。

 

 

バスの車内にウィークエンドが歌う「岬めぐり」が流れ始めると、康介の心に懐かしい感情が湧き上がってきた。その瞬間、彼は岬の約束を思い出した。


大学時代の岬

康介と由紀が初めて訪れた岬は、二人にとって特別な場所だった。二人で岬を歩き、未来の夢を語り合った。恋する二人に、潮風さえもあまく優しくささやきかけた。

「二人で世界一の幸せになろう!」とあの時誓い合ったことを、康介は鮮明に思い出した。由紀の笑顔と、その時の幸福感が彼の心に蘇った。


電話の向こう側

岬巡りを終えた康介は、宿に戻るとすぐに由紀に電話をかけた。心臓が高鳴る中、電話のコール音が響いた。そして、由紀の声が聞こえてきた。

「もしもし、由紀だよ。」

康介は深呼吸をし、自分の気持ちを伝え始めた。
「由紀、俺は自分の過ちに気づいた。お前を傷つけてしまったこと、本当に申し訳ない。もう一度、やり直したい。美優と一緒に、家族としての生活を取り戻したいんだ。」

由紀はしばらく黙っていたが、やがて静かに答えた。

「康介、あなたの気持ちはわかったわ。でも、私も色々と考える時間が必要なの。すぐに答えを出すことはできないけど、話し合う機会を持ちたいと思っている。」

康介は由紀の言葉に感謝し、これからのことを話し合う約束をした。彼は自分が変わるために必要な一歩を踏み出したことを実感し、少しずつ希望を感じ始めた。



4 新たな一歩



康介は由紀との電話を終え、心の中に少しずつ希望が芽生えてきた。誠の提案に対する考えもまとまりつつあったが、実際にラーメン店を開くという決断にはまだ不安が残っていた。しかし、今の生活を続けていくことが果たして幸せなのかという問いに対しても、答えは出ていなかった。

翌朝、康介は再び誠と語り合うために宿の食堂に向かった。誠はすでに待っており、テーブルには朝食が並んでいた。

「おはよう、康介。どうだ、昨日のこと、もう少し考えがまとまったか?」

誠は優しく笑いながら康介に問いかけた。康介は深く息を吸い込み、自分の気持ちを整理しながら話し始めた。

「誠、俺も少しずつ前に進む決心がついた。ラーメン店をやることに興味はある。でも、やっぱりまだ不安も多いんだ。資金のこと、経営のこと、全部が初めてでどうしたらいいのか…」

誠は頷きながら、康介の不安を理解しているように見えた。

「康介、もちろん不安はあるさ。でも、一緒にやれば乗り越えられる。お前のラーメンは本当に旨いし、きっと成功する。俺も経営の勉強をしてきたし、二人で力を合わせれば大丈夫だ。まずは小さな店から始めて、少しずつ成長させていこう。」

誠の言葉に勇気をもらいながら、康介は次第に不安が和らいでいった。彼は誠と共に新しい未来を切り開くための具体的な計画を話し合い始めた。

計画の具体化

康介と誠は、まずは資金集めの方法について話し合った。康介は持っている貯金を投入することを決意し、誠も自身の貯金を提供することを約束した。さらに、クラウドファンディングを利用してラーメン店の立ち上げ資金を集めるアイデアも浮かび上がった。

「クラウドファンディングを使えば、初期費用を抑えながらも多くの人に店の存在を知ってもらえる。それに、支援してくれる人たちとの絆も深まるだろう。」

康介は誠の提案に賛同し、二人でプロジェクトの詳細を練り上げていった。店のコンセプトやメニュー、立地条件なども具体的に決め始めた。


由紀との再会

康介は長い時間をかけて由紀のいる田舎の町に到着した。町の風景は東京とは対照的で、静かで穏やかな空気が流れていた。康介は少しの緊張感を感じながら、由紀が住む家を訪ねた。

由紀はドアを開けると、少し微笑んで迎えてくれた。

「康介、元気だった…?」

「由紀、君と話したいことがあるんだ。」

二人はキッチンのテーブルに座り、静かな時間が流れた。康介は、自分の気持ちを素直に伝える決意をした。

「由紀、君と美優がいない生活は本当に辛い。君たちがいないと、何も意味がないことがわかった。」

由紀は少し微笑みながら、康介の言葉を聞いた。

「由紀、実は誠と一緒にラーメン店を開くことに決めたんだ。お前と美優のためにも、もっと良い生活を提供したいと思っている。まだ不安も多いけれど、誠と一緒ならやり遂げられる気がする。」

由紀はしばらくの間沈黙していたが、やがて静かに答えた。

「康介、あなたの決意はわかったわ。でも正直言って、またあなたがストレスで不機嫌になるんじゃないかって不安もあるの。」

続けて由紀は静かにいった。「康介、あなたを完全に嫌いになったわけじゃない。でも、東京の生活が私には合わないの。もう東京には戻りたくない。」

康介は由紀の本心を聞いて、深い落胆を感じた。しかし、その一方で彼は、由紀の気持ちを尊重し、理解しようと努めた。

「そうか…君がそう思っているのなら、無理に戻って来いとは言えない。でも、僕は君の気持ちを変えるためにも、東京で誠と一緒に頑張るよ。そして、君と一緒に暮らしたい。」

由紀は康介の決意を聞き、少し安心した表情を浮かべた。

「康介、ありがとう。私もあなたの努力を見守っているわ。」

康介は田舎を後にし、再び東京へと戻った。そして、毎日忙しい仕事の合間を縫って、由紀に一日の出来事をメールで報告した。どんなに忙しくても、一日のことを伝え続けた。

  

新しい旅の始まり

康介と誠は準備を進め、ついにラーメン店の開店日が決まった。東京に戻り、二人は店の準備に追われながらも、新しい未来に向けての希望に満ちていした。

開店当日、康介と誠は店の前に立ち、看板を見上げた。看板には「三助のラーメン屋」と書かれていた。二人は深く息を吸い込み、店のドアを開けた。

「さあ、始めよう。俺たちの新しい旅を。」

 

 

 

 

5 ラーメン店の開業と繁盛店への道程


開店準備

康介と誠はラーメン店の開業に向けて、全力を注いでいた。店の内装を整え、メニューを決め、必要な材料を仕入れる。忙しい日々が続く中で、二人の絆はますます深まっていった。康介は自分のラーメン作りに対する情熱を再確認し、誠もその情熱に応えようと努力していた。

「康介、今日は試作のラーメンを作ってみるか?」

誠が提案し、二人は厨房で試作を始めた。康介のラーメンは大学時代から変わらない美味しさを誇っていたが、店として出すにはさらに改良が必要だった。誠は自分のアイデアを出しながら、康介と共に試行錯誤を繰り返した。

試作の完成と開店

数週間の試作を経て、ついに二人は納得のいくラーメンを完成させた。開店日が迫り、康介と誠は最後の準備を整えた。店の名前も「三助のラーメン屋」と決まり、看板が掲げられた。三助とは康介のお爺さんの名前だった。

開店当日、店の前には多くの人が並んでいた。近所の住民や、クラウドファンディングで支援してくれた人たちが集まり、店の成功を期待していた。康介と誠は緊張しながらも、心の中に希望を持っていた。

「いよいよだな、康介。頑張ろう。」

「うん、誠。一緒にやろう。」

二人は深呼吸をし、店のドアを開けた。開店と同時に、お客さんたちが店内に入り、席に着いた。康介と誠は手際よくラーメンを作り、次々と提供していった。

 

初日の成功、康介と誠の奮闘

初日は大成功だった。お客さんたちは「三助ラーメン」を満足気に食べてくれていた。手ごたえはあった。康介と誠は疲れ果てながらも、達成感に包まれていた。

「康介、やったな。初日からこんなにお客さんが来るなんて、想像以上だ。」
「本当に、誠。しかし、これからが本当の勝負だよ。」

しかし、成功の裏には新たな試練も待ち受けていた。翌日からも連日お客さんが訪れ、店は常に忙しい状態が続いた。康介はラーメン作りに集中し、誠は接客や仕入れを担当していたが、次第に疲れが溜まっていった。

あらたな試練と誠の支え

店の成功が続く中で、康介と誠は新たな試練に直面することになった。突然、近くに全国チェーンのラーメン店の出店があり、お客さんが減少し始めたのだ。誠は焦り、康介と一緒に対策を練ることを迫った。

「誠、このままだと店が危ない。どうしよう?」

「誠、焦らずに考えよう。値下げ競争に巻き込まれるのは避けたい。むしろ、我々の強みをもっと活かして、他所とは違う価値を提供しよう。」

康介はあまり心配していなかった。ラーメン好きな人は、自分好みのラーメンから離れることはないと思っていたからだ。しかし、誠の冷静なアドバイスに従い、康介は新たなメニューやサービスの改善を図った。二人はお客さんの声を聞きながら、少しずつ改良を加えていった。

困難を乗り越えて繁盛店に

康介と誠の努力は実を結び、次第にお客さんは戻り、増えていった。新たなメニューやサービスが好評を博し、店の評判も高まっていった。康介は誠の助けを借りながら、自分のラーメン作りに自信を持てるようになっていった。誠は店の経営に自信を持つようになった。

或る日、ラーメン通で有名な大スターが、スタッフを連れて来店すると、うまい!を連発し、三助ラーメンを絶賛してくれた。抜け目のない誠は、本人の確認をとると、インスタグラムやブログにその様子をあげておいた。そのあと、テレビ取材や雑誌で取り上げられたりすると、ますます来店客は多くなっていった。誠はユーチューブでも「三助ラーメン」の一日をアップして広告宣伝を行い、来店客を多くした。また、これらのSNSでの発信は人材採用の時に威力を発揮した。

スタッフ、従業員も増やしていった。多忙が続いた初期段階で誠の奥さんが店の運営に参加してくれた。それからパートを雇い、戦力化した。誠は近い将来、二号店、三号店を出すために店長候補を雇って修行させた。瞬く間に3年が経過した。

 

エピローグ 新たな生活の幕開け

 

「康介、俺たちやったな。困難を乗り越えて、店を繁盛店にできた。」
「本当に、誠。お前がいなかったら、ここまで来られなかった。」

康介と誠は久しぶりにご馳走を並べ、祝杯を挙げた。誠は、新たな未来を見据えた計画を滔滔と語った。ラーメン店の成功は、二人の友情と努力の賜物だった。しかし、康介の心は満たされていたわけではなかった。

「康介、これからは店舗を増やして、もっと大きなチェーンにしていこう。俺たちのラーメンは、まだまだ多くの人に愛されるはずだ。」

誠の目は輝いていたが、康介はその言葉を聞きながら、静かにうなずいた。

「誠、君の考えは素晴らしいし、きっと成功すると思う。でも、僕は別の道を選びたいんだ。」

誠は驚きの表情を浮かべた。

「別の道って、どういうことだ?」

「僕は由紀と美優のいる町で、ラーメン店を開業するつもりだ。この3年間、毎日由紀のことが頭から離れなかった。家族と一緒に、小さくても温かい店をやりたいんだ。」

誠はしばらくの間、黙って康介の言葉を受け止めた。そして、やがて微笑んだ。

「康介、お前の決断を尊重するよ。俺たちが一緒にここまでやってこれたのは、君の頑張りのおかげだ。新しい場所での、お前たちの幸せを祈っている。」

康介は誠と固い握手を交わし、二人とも新たな道を歩み出す決意を固めた。


康介は東京を後にし、由紀と美優のいる田舎の町に戻った。久しぶりに見る町の風景は、彼に安堵感をもたらした。

家に帰ると、由紀が出迎えてくれた。彼女の目には、康介への信頼と喜びが映し出されていた。

「康介、お帰りなさい。」

「由紀、ただいま。これからは、ここで、君と美優と一緒にラーメン店をやりたいんだ。」

由紀は涙を浮かべながら、康介を抱きしめた。

「康介、ありがとう。この3年間、あなたは一日も欠かさずにメールをくれたわ。私、嬉しかった。これからは一緒に頑張りましょう。」

康介は由紀の言葉に深く感激し、新たな生活を始める決意を強くした。


新たな挑戦

康介と由紀は、家族経営のこじんまりしたラーメン店を開業した。店の名前は「美優ラーメン」とし、家族の絆を象徴する名前をつけた。営業時間も朝早くから始め、3時には店を閉めるようにした。週に2日は休みにし、メニューもラーメンと白いご飯だけのシンプルな内容にした。

美優ラーメンの、ご飯と一緒に食べるラーメンはもの凄く美味しいとの評判になり、徐々に町の人達に愛される存在になった。康介と由紀は忙しい日々を送りながらも、愛のある毎日に心から幸せを感じていた。美優も店の手伝いをしてくれた。美優ラーメン店には家族の暖かい空気がながれていた。

  


家族と共に 

康介は働くことの大切さを理解しつつ、家族との時間を何よりも大切にするようになった。由紀と美優と一緒に過ごす日々は、彼にとって何ものにも代えがたい宝物となった。

康介の心は、静かに満たされていった。働くことも大切だが、それ以上に大事なものがあることを、彼はようやく学んだのかもしれない。今は、愛する由紀と美優と共に過ごせる毎日に、言葉にできないほどの感謝が込み上げてくる。過去を振り返ることも、未来に焦がれることもなく、ただ目の前の小さな日常をかみしめながら生きる。毎日は同じことの繰り返しに思えるが、その中にこそ、かけがえのない幸せが宿っていることに、康介は気づいたのだ。

それでは、最後に、康介の気持ちになって、吉田拓郎のI’m In Love の曲を流してこの物語を閉じようと思う。

(追伸 多分、動画途中で切れなかったので、この曲がおわったら停止お願いします。未熟ですみません。)


 



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