歌詞考察 | aiko 気付かれないように
aikoのアルバム『彼女』に収録されているバラード『気付かれないように』。
あたしが気付かれないように隠した気持ち、そして何に気付かないようにしたのか、考察していきます。
状況としては、以前まで付き合っていた相手と突然逢った場面。
あなたの変わらない"髪を触るクセ"に、一緒にいた頃を思い出します。
ただ、ぽっかりと空いた時間と距離感から、当時と同じように接するのが難しくなっており、当たり障りのない会話だけがぽつりぽつりと始まります。
前を見据えて話すあなたと、よそ見をしながらついて歩くあたし。
大人ぶる演技で精一杯なあたしは、うわの空な生返事をし、本心を隠すように目線を外します。
あなたの髪の毛を触るクセや話し方は、次々とよみがえってくる思い出と重なり、複雑な感情へと変化していきます。
もう実ることはないと理解しつつ、確かに残るあなたへの好意を、"大人ぶったあたし"というもろい鎧で隠して、会話は続いていきます。
変わらずまっすぐ前を向いたまま歩くあなたと、複雑な感情を抱きながらついて歩くあたし。
つぎはぎの鎧を必死に取り繕って演技をするあたしは、当たり障りのない返事を続けます。
たくさんの聞きたいことを押し殺して出来たあたしの手のひらには、ぐっと堪えた跡が残っています。
これ以上踏み込むのは傷つくだけだと分かっていながら、薬指に着けた指輪だけは見過ごせませんでした。
本心を隠すために纏った"大人っぽく振る舞う"という鎧が壊れはじめ、複雑な感情が溢れ出て言葉になります。
返事をするあなたに見たのは、当時あたしに向けられていた好意。傷つくために確認する必要もなかった「今の彼女がすごく好き」という言葉。
今の彼女を大切に想うあなたのまっすぐな気持ちと、未練に似た不安定なあたしの複雑な感情。
残酷で変わりようの無い事実。
そして、冒頭で妙に鮮明に描かれていた目線の描写が伏線となり、すべてがリンクします。
ここからは文脈からの推測になりますが、『あの時』が指す場面として、当時、何らかの理由であたしから別れ話を切り出し、そんな(比較的くだらない)理由を生み出したことを後悔している。そんな印象を受けました。
しかし、別れる理由となったことも、大切な出来事であったと信じていたいという強がりな部分も、大人になりきれない様子として含まれているように思います。
それから、出会い頭に見せた照れ隠しに、まだあたしのことを好きなのではないか、という甘えた大きな誤解。
あたしと出逢って別れたことにより大人になったあなたを見て、これまでの未練がましいあたしと決別し、あなたと同じようにあたしも大人になろうと心に決めます。
別れる口実にした理由が間違いだったと気付かないように、まだ好きでいたのだとあなたに気付かれないように...
切なさを乗り越えて、新たな一歩を踏み出すきっかけとなったあなたとの再会になりました。