歌詞考察 | aiko 自転車
aikoの名盤中の名盤『時のシルエット』の最後を飾るバラード曲、『自転車』。どこか涼し気でノスタルジックな感覚を覚えるイントロに始まり、次第に熱を帯びていく歌声は、名盤の最後に相応しく、また"aikoの隠れ名曲"と言えるのではないでしょうか。(アルバムのラスト曲は全部良いから聴いてね)
aikoらしさが詰まった『自転車』の魅力をお伝えできれば嬉しく思います。
全体のストーリーとしては、別れたあなたを想う曲。
イントロのどこか懐かしい感覚に予感させた通り、"さっき小さな音が聞こえた"ことをきっかけに、あなたを思い出す場面から始まります。懐かしい気持ちになるのはなんとなく夏の印象があって、まだ夜は冷えるくらいの初夏と捉えるのが一番しっくりくるかなと思います。
出ました。aikoしてます。(動詞)
片時も忘れずあなたを想い続けることで生まれる不安こそがaikoです。
詞の通りにはなりますが、「気持ちは昨日今日と変わっていったし、明日も変わるだろう。あなたがあたしを明日も明後日もこの先も好きでいてくれるだろうか」と、不安をつぶやくように吐き出して、サビへと続きます。
あたしのあなたを想う気持ちは、いつもあなたより大きいことを、手を繋いだ場面に重ねて表現にしています。
2番は、1番冒頭と繋がり、"朝の白い空を見上げてゆっくりあなたを想う"行為の一環。
前後で“好きになっただけのあの日”を深く掘り下げるわけでもなく、なんとなく懐かしい写真をパラパラとめくっていくような描写で、あなたを好きになった日を思い返します。
ここも歌詞通り。あなたと一緒にいた日々が止まってしまったことを腕時計に重ねて表しています。
ゆっくりあなたを想っていたところから、いきなり現実を見せられた表現となっていて、曲の雰囲気は次第に懐かしさよりも悲しみを帯びていきます。
2番サビは、"思い出したよ理由もなくただ 別れてしまっただけのあの日のことを"といったところでしょうか。1番サビで語った、温度差のある繋いだ手と手の描写が続きます。
考察と銘打っておいて完全に妄想ですが、『あたしの不安をあなたに触れられて、そんな優しさが気に入らず、あなたに冷たくしてしまった』ような情景が浮かびます。あなたの優しさは、不安なあたしを包むには到底足りなかったようです。
ここ、もうまさしくaiko(動詞)の定義だよね。愛が重くて、勝手に辛くなって、そんな不安を上手く伝えられなくて強く当たっちゃうやつ。好きなのに、嫌いになっちゃうやつ。aiko(動詞)。
ここまでをまとめると、片時も忘れずに好きなあなたを想うあたしは、寝起きの頭であなたを想い、止まった腕時計を見て別れた日を思い出して「あぁ別れたんだっけ...」と現実に戻りました。
そして間奏明けてCメロ。ラストサビ前の大事な部分。
寝起きに楽しかった日をまっさきに思い出すあたしはまだあなたを好きなのだと再認識して、あなたはどう思っているのかと答えの出ない疑問を抱き続けながら、朝の白い空のなか背伸びをします。
"気持ちは昨日今日毎日変わって行く"
"明日あなたはあたしの事をどう思っていてくれるだろう"
あなたに問うたあたしの答えは、
"笑って返す 空がとても眩しい"。
新しい朝も変わらずあなたを好きでいられたことが嬉しい、清々しい朝を迎えました。
朝起きてあなたを好きだと安心するあたしの、明日への恐怖は計り知れず、好きなあなたを想う不安とはまた違った、"明日のあたしの気持ちが不安"な部分を表現しています。
言い換えれば、あなたを忘れてしまう恐怖。
恋ではなく愛に近い感情。
ただ痛みが薄まるのを待つしかない状態ですが、あなたとの出逢いはあたしにとって大きな出来事であると、優しい雰囲気のままエンディングを迎えます。
さらには、冒頭の"さっき小さな音が聞こえた"のが暗示しているのは、自転車の音が外で聞こえたことで、あなたが自転車で会いに来てくれていたという内容が隠されていました。
まだ夜は冷える初夏の日の朝、凛としたベルが鳴り響いてあなたがやってきてくれたんだと勘違いして目が覚めたシーンでした。
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