歌詞考察 | aiko ハニーメモリー
aikoの40thシングル『ハニーメモリー』の歌詞考察をします。
全体の物語は、僕の浮気が原因で別れた本命の君を思うお話。
歌詞考察の前に、前提知識として2つ。
ひとつ目は、aikoが男性目線で書いた曲は割と素直な感情を表せられるといった趣旨のお話を以前にされていました。『鏡』なんかが良い例です。男性目線から書かれた『ハニーメモリー』も少なからず素直な感情で書かれたものであるように読み取ることが出来ます。
ふたつ目は、恋愛に関する曲を400曲前後発表してきた中で初めてはっきりと「未練」という言葉が使われていること。いままで未練に近い感情はあれど、未練に具体性やストーリーを持たせた中に比喩と緻密な表現を用いて描いており、どちらかというと普遍的な「未練」に対する印象とはかけ離れた、愛した良い思い出として曲に落とし込んでいたかと思います。珍しく漠然とした「未練」という表現には、男性目線であることにも関連しているのか、または噛み砕ききれていない表現として意図的にぼやかしたのかは不明ですが、ハニーメモリーにおける「未練」とはっきりしない表現が、一周回って依然はっきりしない心模様をより表せてしまったように感じます。良くも悪くもいままでの繊細鮮明に描いてきた功績があってのことと思います。
以下より詞の考察。
曲の導入部分は、僕が別れた君に未練があることに対して泣いている場面から始まります。
どんなことがあったのか、続きます。
詞のままにはなりますが、僕が本命であった君とは別のひとと恋愛関係を持ってしまい、本命の君がいる家に帰る描写になります。
家で待っている君目線に立ってみると、夜が更けても帰ってこない僕のことを「待っていたよ」という優しさ持ち合わせていた、と受け取ることが出来ます。
僕が浮気をして君を忘れている時間が一瞬でもあったとしても、君は僕を一秒と忘れずずっと想っていたという恋愛観のズレを垣間見ることが出来ます。
僕と本命の君の関係が長いことを表しています。
この歌詞考察にも毎度出てくる解説であって、aiko自身がおそらく相当意識している点である「何ら変わり映えのない平凡な日常を最高の幸せと思えるか」というお話にもなりますが、僕にとって誰かに恋をしている状態の刺激の多い感情が、ある特定の誰かを愛している比較的上下の少ない感情よりも優先されていたから浮気に走ったといった描写になります。
導入部分のリフレイン、及び1番全体をサビにまとめています。
「違う花食べた」とあるように、すでに別れたあんなにも愛情深かった君には、僕以外の違う相手がいてもおかしくないと憶測の上で「今年の桜は誰と見たの?」と宙に問いかけます。
僕が君を忘れて自分勝手をしたことと、洗面所の電気を付けて遠回しに待っていると表現をしてくれたように、一瞬も忘れずに想ってくれていたことが、当時の僕と君との価値観の違いでした。今になって僕を待っていてくれた当時の君の気持ちを察せたこと、そしてそれがすでに叶わないことであって、別れてから君への愛情を募らせていて君以外には移れなくなってしまった現在を表現しています。
二番は君が僕に向けた言い放った言葉を思い出す描写。
「ずっと笑ってられるわ」と投げられたように、君は僕を想って陰で泣いていたことがあったのではと察する場面。また、浮気しているのをおそらく察して傷つきながらも僕を想ってくれてる状態のつらさを、身代わりになれるもうひとり(もう5人いても足りないといった表現?)の自分がいたらいいな言っていた、という表現にもなります。
また、当時の君と同じ立場になってやっと言われた意味を身を持って理解できた場面で、現在の粉々になっている僕を入れ替えてでも君をまた想いたいという気持ちが残っている(未練)描写でもあります。
当時陰で泣いていたであろう君の涙の意味が「僕への想いを透明にしている」、=好きという気持ちを無くそうとしていることであったのではないかと勘ぐる場面です。「思いっきり泣いて泣いても未練は流れ落ちない」とあるように僕がいくら泣こうとも君への好きという感情は透明にはならない意味と繋がります。サビのままですが、涙が好きという気持ちを一緒に洗い流すようなイメージで書かれているように思います。
当時、君が涙を堪えるような仕草を見せたのは僕をまだ好きでいたかった気持ちを示唆していた、としても取れ、と同時に僕から離れた君は涙によって僕への思いが既に透明になったことを意味しています。
書き手aikoの表現力として、おそらく良い思い出にとっておきたいという心理が働いており、一切をなくすのではなく「透明にする」、美化されていても綺麗な思い出であって欲しいという願望が見え隠れするのも表現者だなぁと感じます。
君以外を想っている僕と第三者の関係があまり良いものではないと理解しており、恋愛(ここではどちらかというと愛)を軽視したことで君との別れが訪れたと感じています。
一度壊れてしまった関係はもう戻らず、それでも変わらず君を想う気持ち、または別れてより強くなった愛おしい感情は、関係が壊れて向け先がなくなってしまっても変わらずにいるようです。ここで言う「未練」の説明でもあります。
繰り返し君を思って涙で未練を洗い流そうとしても依然君への想いは残ったままでいます。
恋愛(恋の意味が近い)の刺激ある楽しさを忘れてしまうくらいに、恋の味を感じられなくなるくらいに君を愛おしく想う日々の渦中にあります。
冒頭と同じ歌詞ではありますが、ここでは僕ひとりになった家に帰ってきたように受け取れます。洗面所の前で肩を落としたり、いつか君への想いが透明になるまで涙を流している僕の情景が浮かびます。
当時は悪いと思いつつもスリルある恋の狭間に揺れている状態を楽しんでいて、素直でいてくれた君をいい加減に扱ってしまいました。
ここで曲は終わりますが、どちらとも選べずにいた自分への後悔と、君への愛情だけはしばらくあとを引くようです。
『ハニーメモリー』の歌詞考察はここまでになります。読んでくれた方ありがとうございました!