歌詞考察 | aiko 磁石


2021年3月3日リリース予定のaiko14thアルバム『どうしたって伝えられないから』から、先行配信された『磁石』の歌詞考察をします。

兼ねてから、相手や自身の心情や些細な機微を汲み取り繊細な表現を得意としていたaikoですが、そんな彼女の魅力が存分に発揮された一曲となりました。ひとつずつ読み解いていきたいと思います。

https://youtu.be/imDvWmmoXHk


言えなかった訳じゃないの 言わなかっただけのこと
同じ部屋で何度も別れてくっついた
魔法なんて無くて本当に有るのはここにいることだけ あなたがいることだけ

aiko『磁石』

全体のストーリーとしては、憧れていた相手に近づいてから離れるまでのお話。ただ、今回は徹底的に"あたし"だけの目線、かつ感情面にフォーカスしたまま展開されていきます。

場面の提示として、『本当に有るのはここにいることだけ あなたがいることだけ』の中で、あたしが気付いてしまってからも、あえてあなたに言わないように隠している感情があることを明示しています。

感情に飲み込まれ どうしていいのかわからず
耳いっぱいに詰め込んだ輝いたミュージック
自己嫌悪机のシミに嫌気が差した
なんかそんな日は突然やって来てね

aiko『磁石』

続くAメロ。
あなたに隠している感情の生まれた場面と、その取扱いに困って乱されていることを告白します。
あたしが乱されて逃げ込む先は音楽、どんなに明るい音楽を聴こうが何に対しても嫌になる感情は誰しもが共感できる部分かと思います。

余談ですが、自身の体験を詞先で作曲するaikoが、音楽に逃げ込むもあまり筆が進まなかった日を体験したのかな、と妄想してしまいました。

あなたを大好きなあたしがいるのは
あなたにずっと憧れていたから

aiko『磁石』

サビでは、冒頭にあったあたしが隠すあなたへの想いの一角を表します。
多くは語らないにも、現在なのか過去なのかに注目するとかなりリアルで繊細な表現であることを読み取れます。
まだ好きではいるあたしから、あなたへの憧れがなくなってきたことを明白にする場面。好きと憧れが混在していたことに気付き、距離が縮まってからは一緒にいることへの違和感を覚えています。

匂いの散らばるジャケット
帰ってきたらいつもバツが悪そうに椅子に丸まって
膨れたポケットろくなもんじゃない
多分「それなに?」と聞くあたしもいない

aiko『磁石』

2番はあなたのジャケットに誰かの気配を感じながらも、深く詮索しなくなってしまったあたし。
好きの対義語は嫌いではなく、無関心という言葉にぴったりの描写に思います。

繋ぎ止めていた理由に嘘が生まれ
書き直した心に浮き出したダミー
目につく思い出 薔薇色 桃色
枯れてもあの日を責めたりはできないよ

aiko『磁石』

Aメロ続き。ここまでを整理する場面。
恋愛感情として好きだから一緒にいたいと思う気持ちは実際にふたを開けると憧れで、憧れがなくなってくると、好きという感情が偽物(ダミー)だった。けど、一緒にいたい/知りたいという気持ちは本物だったからあなたに憧れていた過去を嫌いにはなれない、という場面。
この曲の核になる気持ちを表しています。

また余談ですが、aikoはいままで男女間の深い接触に『桃色』を使ってきたので、ファンをニヤリとさせてくれる詞でした。(ex.『恋のスーパーボール』『桃色(カブトムシc/w)』)

あなたを大好きなあたしがいるのは
あなたにずっと憧れていたから
瞬間ときっかけがこっちを見ている
諦めと嫌いはもう抱きしめ合ってる

aiko『磁石』

この曲の核を踏まえた上で、軽く触れたサビを掘り下げます。
まだ好きだけど、もうすぐ恋愛感情の好きという感情がなくなってしまいそうだと予感しています。それはあなたとの距離が近くなりすぎて憧れがなくなってしまったから。

物語に流れはなくとも、あたしの中で流動的に変化する感情が繊細に描かれていきます。
"好きと憧れの混在"から"憧れの自覚と消失"のあとに残るものは、"好き"ではなかったようです。

『磁石』というタイトルに倣って、くっつく、離れるをどこか意識しながら書かれている詞が印象的です。

悩んでひとりぼっちになった そしたら朝が眩しかった
知らなかったよ こんな世界も
走り切ったよ あたしの想いも

aiko『磁石』

ここまで相手の描写がかなり少なく、ひとりで考え込む時間を過ごして得た感情だと理解できます。とにかくひとりで納得する場面。『朝が眩しかった』とあるのは、一緒にいることが正解ではないという決心を意味するのではないでしょうか。
近付きたい/一緒にいたいという気持ちは確かに存在し、好きと憧れが一緒になっていた時期に燃えるような恋愛を駆け抜け、ふたつが乖離し別のものへ飲み込まれていく表現に受け取れました。

あなたを大好きなあたしがいるのは
あなたにずっと憧れていたから
反発しあってもうくっつかない磁石
触ると色が変わる細い血管

aiko『磁石』

ただ好きでいたあなたから、理想としていた大好きな憧れのあなたと、一緒に過ごすあなたとの差が明確に分かり、一緒になれないことを確信します。
あなたに触れられる距離となった途端に、あたしと同じ色となる血管を磁石のメタファーとして用いる独特の感性がaikoらしいなと思えました。
最後、反発し合う磁石の行く末はみなさんのご想像どおりになります。


『磁石』の考察はここまで。いかがだったでしょうか?
なんかわかる!とか、わざわざ言語化しないような感情を汲み取るのが相変わらず上手くて共感できちゃう。
ライブ好きなaikoがこうしてライブが出来ない状況にあっても、変わらずリリースしてくれて嬉しい。歌手としてはもちろんだけど、それ以外の人間くさいところも好き。
感情のうつろいと繊細な表現が出来るaikoの凄さに、ただただ圧倒された一曲でした。新しいアルバムたのしみ!!

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