歌詞考察 | aiko 明日の歌
aikoメジャー11thアルバム『泡のような愛だった』の一曲目に収録された『明日の歌』を歌詞考察していきます。
アルバム曲にも関わらずMV制作まで行われた本曲。
シングル曲に比べて、カップリングやアルバム曲に色が強く出やすいaikoですが、今回考察する『明日の歌』も例に漏れず、メロディライン・歌詞そのどちらにもaikoらしさの詰まった一曲となっております。
まくし立てるような早口の歌唱と言葉数の多さから、感情が非常に強く表れている一曲となっていますので、その魅力を余すことなくお伝えできれば嬉しく思います。
全体のストーリーとしては、
別れたあなたとの想い出に苦しむ物語。
いかにも失恋ソングの女王と呼ばれるaikoらしい主題である。
ただ、そんな暗いストーリーの中にも相手との距離感や、終盤に向けて変化していくあたしの感情などが繊細に描かれているので、ひとつひとつ丁寧に見ていきます。
悲しげなピアノに始まり、ポップかつ重厚なイントロからスタート。
矛盾しているようで、間違いなく狙って表現しようとしているaikoの得意技。楽し気に悲しい曲を歌うのである。
深く沈む悲しさの中にある、確かに動く激しい感情のままに、シャウトに似た歌声から次々と吐き捨てていくようなAメロに突入していきます。
Aメロは、あなたとふたりでいたであろうあたしの部屋に、ぽっかりあなただけいなくなった描写から。着古したTシャツすらもあなたから貰ったもので、どこを見てもあなたとの想い出ばかり。あなたを思い出さざるを得ない状況。
同じもので同じことを何度も思い出しては想い出に浸るような描写が多く、どちらかというと、あなたと長く付き合っていたというよりかは、別れてから手をつけずに放置していた期間が長かったような印象を受けます。
Bメロは少し過去の話で、Aメロの「楽しくて切ない昔話」にあたる部分。
あたしがあなたを想う感情が強すぎることを自覚しているが故に、あなたに嫌われてしまうくらいなら一緒にいたいという理由から、必死に欲を押し殺していました。
ですが…
やーーーーーーん。aiko。
aiko....
...
…失礼しました。
リアルをつきつけるたった一言の描写で、想い出話から場面は現在に切り替わります。
あなたとあたしが別れた理由は明白ではありませんが、一緒にいたいと願うばかりに抑えていた感情を、(あたしの悪い妄想の範疇ではありますが、)あなたはあたし以外にありのままに伝えています。
そんなことになるのであれば、ふたりでいられた間にもっと素直になれば良かった、という後悔の一節でもあります。
そりゃ冒頭で叫びたくもなる。
『明日の歌』という題名でありながら、「明日が来ないなんて思わなかった」とあります。あなたとあたしだけの世界を歌い続けるaikoに基づいて意訳すると「あなたといる日が来ない」。
あたしひとりでは明日にならないという、真っ暗闇の渦中にあることを示しているのではないでしょうか。
あなたと知り合う前のあたしと、あなたが抜け落ちたあたしは全くの別物であって、そんなあたしの状況下を初めての経験と表現し、痛くて苦しいと漏らしています。
しかし、ただ悲しみに暮れるのではなく、「別れたあなた以外の誰か」に向けて、立ち止まったままの今日から『明日』へ引っ張り出してもらいたいと願い、比較的前を向いて2番へ続きます。
2番は、想い出の多すぎる部屋からつぎつぎと場面が変わっていきます。
あなたなんてもう気にしていない、という素振りで始まったようにも取れる「暑いって言うか...」。暑い部屋にいるから流れた汗、何故かつらくて溢れ出る「何か」を洗い流してしまおうとシャワーを浴びている場面でしょうか。
気にしていないはずなのに、自らの髪の毛を触ってはあなたが近くにいたことを思い出してしまいます。部屋のものだけではなく、あたしの身体にもあなたの想い出が多すぎる。
この電池が何を指しているのかは憶測になってしまいますが、あなたとの想い出を断ち切るために髪を切った後?
(バリカンは考えにくいですが、あなたに髪を切ってもらった想い出があるのかも。)
もっと抽象的にするならば、あたしがあなたを想う気持ちが燻っている状態。
消えそうで消えない何かに聴き手が当てはめてみても面白いかと思います。
それから、暑い部屋の冷たい廊下や床。序盤の部屋に見えるものあちこちに向けた激しい感情から、中盤はあたしの内側にある悲しい感情に注目した描写へと変わっており、パート締めの部分も「また同じことばかりを考えて」いると、あたしにフォーカスした内容となっています。
あなたを想う気持ちが強すぎるあたしの、『あなたとあたしだけの世界』にあなたがいないのならば、考えることもやはりあなたのことなるのは必然ではないでしょうか。
これがaikoの世界観で、aikoのカップリングやアルバム曲の恐ろしさです。
率直に受け取るならばこれは、春に出逢って、夏に別れたあなたとの物語。あなたが離れてからあたしは明日へ行けずに取り残されたままでいます。
上記の通り。
回想と現実を再び見つめ、足踏み状態のままエンディングへ。
最後は強がりで「嫌い」と言っていたことを認め、やっと初めてあなたに素直になります。今日で終わりになるのではなく、明日へ繋がる予感が間接的に伝わってきました。
現状あなたと一緒にいた今日の続き、言い換えるならばあなたのいないあたしとあなたのままでいますが、誰かが明日へと連れ出してくれるような、こんな日を笑い飛ばしてくれるあなたとの明日を迎えられるような、予感した通り前向きな気持ちで曲を終えます。
以上、aikoの『明日の歌』の魅力を感じていただけたでしょうか?
ここから個人的な解釈にはなりますが、『明日の歌』のエンディングを知った上で「冷たい廊下や床」を物理的な現象として受け取ってみると、夏の終わりを感じさせる描写のようにも見て取れます。
春に出逢い夏に終わったこの物語が、少しずつでも確かに時間が進んでいる伏線が張られていて、この曲の奥深さを感じ取っていただれけば嬉しいです。
2020年9月末現在、暗いニュースが続くいまに落とし込んだ解釈となってしまいましたが、つらくなったらaiko聴いて元気を分けてもらってます!ありがとうaiko!愛!
さぁ、aiko聴こう!
みなさんもご自愛くださいませ。