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ランドパワーのシーパワーへの挑戦

シーパワーとランドパワーは基本的に海洋国家と大陸国家の力という地政学的な概念があるということを別の記事で述べた。

ただ、これは軍事的な分類だけではなく、思想的分類にも通ずる。

例えば、アメリカでは共和党と民主党という思想の違う2大政党が鬩ぎ合っているが、これはシーパワーとランドパワーの戦いと言い換えることができる。

アメリカはヨーロッパの貧困層が土地を求めてアメリカ大陸に渡り植民地化されたという歴史があり、この歴史的背景が両党の争いに大きく影響している。

1845年〜48年にかけてスペインが植民地としていたメキシコの土地(テキサス、カリフォルニア、ニューメキシコ)やイギリスの土地(オレゴン)を買収し、西部開拓を進めて領土を拡大して出来上がったのが今のアメリカだ。

この西部開拓は1890年のいわゆる”フロンティアの消滅”まで続いた。

フロンティア
正式な意味合いで使用するフロンティアとは「1平方マイルに人口が2~6名の地域」と定義されています。これはつまり夫婦が一組いればフロンティアとなるわけです。男性がたった1人で暮らしているのならば、それはフロンティアではなく未開発地、また2組以上の家族が住んでいれば人口は大人4名にだいたい子供が3名以上はいますので合計7名になるのでフロンティアではなくなります。

西漸運動とは ~領土拡張の変遷と西部開拓~ - Historiai (histori-ai.net)

アメリカ中央政府はその国土の広さゆえに各現場を管理しきれない。
そのため、政府の国民への関与が少なく、中央政府の管理下に置かれない。
アメリカの草の根の国民性はここから来ている。

アメリカ人は基本的に国家に面倒を見て欲しくないし税金も払いたくない。
その代わり福祉もいらない、だから医療保険も日本のように充実していないし、自分の家族は自分で守るため銃を持つことも許可されている。

これがアメリカが自由の国と言われる由縁だ。

ところがアメリカは広大で土地も余っているし、陸続きなので移民が後から後からやって来る。
だがいかにアメリカが広いとはいえ、土地には限りがある。
そのため、後から来た人たちは真ん中の良い土地に行けず、両脇の西海岸(カリフォルニア)、東海岸(ニューヨーク)に集まる。

だが、後から来た人たちの大半は働いても働いても暮らしが楽にならない。

そうなると、自分たちがこんなに苦しいのは金持ちのせいだと言って、金持ちに課税して富を福祉を充実させろと「集めて配る」ランドパワー的考えを言い出すようになり、国内にシーパワーとランドパワーの対立が発生してしまい、これがそのままアメリカの民主党と共和の戦いに繋がっている。

真ん中の良い土地に住む西部開拓民の精神を持つシーパワー勢力が共和党(トランプ)、両側の貧困層を救うために国家権力を強めて集めて分配するランドパワーが民主党(カマラ・ハリス)というわけだ。

アメリカは憲法で人種差別を禁止しているが、人種差別は厳然としてある。
白人は仕事や家もあるが、そうでない人たち(特に黒人)は家や仕事、学歴も無い人が多い。
こういう人たちは自分の力だけでは食べていけないので政府からの福祉や保健を求める。
だから彼らは民主党に投票する。

景気が良くて努力次第で豊かになれる時代は共和党が強いが、不景気で頑張っても豊かになれない時代は分配しろという声が大きくなるので民主党が強くなる。

2020年から始まったコロナ禍では”頑張ってもダメだ”と思う人が沢山出てしまったので、”共和党はダメだ”、”トランプやめろ”とバイデン政権が立ち上がった。

民主党にとっては景気が悪くて民が苦しんでいるほうが貧しい人たちの票を得ることができるので都合が良い。

そして、面白いことに民主党を支持しているのはこの貧困層だけではなくエスタブリッシュメントと言われる超富裕層からも支持されている。
なぜならばこの超富裕層達は安く使える労働力を求めているからだ。

一方で共和党を支持しているのは昔ながらのアメリカ人が多い。
景気がそこそこだと、国に頼らなくても自分たちで生活していくというスタンスの昔ながらのアメリカ人に支持される共和党が強くなる。

民主党はオバマ政権時代から最早、無制限と言っていいほど移民を呼び込んで大量に受け入れた。
オバマケアという医療保険制度も整えた。

しかし2016年にトランプ政権が誕生するとトランプは移民対策等のオバマの政策を次々とひっくり返していったが2021年に立ち上がったバイデン政権が再び移民受入れを開始した。

その結果、現在は不法移民を含む物凄い数の移民がアメリカに住み着くようになってしまい、アメリカ人の不満が頂点に達している。

民主党は不法移民にも市民権(≒選挙権)を与えるといっている。
移民に投票権を与える代わりに民主党に投票させるという戦略で移民をどんどん入れる政策をとっている。

これが『不法移民を取り締まる』とトランプが強く主張している理由で、それを支持するアメリカ人が多くなってきているのでトランプの人気が高まっている。

実はこういった問題は日本でも起きている。
日本に「移民を入れよう」という政治家や「外国人に参政権を与えよう」という人たちが何をしようとしているのか。

彼らの発想はアメリカ民主党と同じだ。

移民を受け入れるという一見、人道的に見える政策をアピールして貧困層を多く受け入れ、国家に頼る人を増やす事で福祉を餌に投票させようとしているのだ。
過激な政党は、弱者保護の福祉政策を過度に求め、国の財政をめちゃくちゃにすることで国家転覆を狙う政党すらいる。

つまりシーパワーの国である日本の中にもランドパワー派がいるのだ。
厄介なことにこの勢力は野党に限らず与党の自民党の中にもいる。

そしてこれが現在の日本の形を変え、既存のシーパワー勢力(資本主義)を排除してランドパワー勢力(社会主義)の復権を目指すものだ。

今の世界で起きているのは戦後、世の中を席巻しているシーパワーに対するランドパワーの挑戦と言い換えることができる。

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