見出し画像

シーパワーとランドパワーという概念

世界で今起きていることを見るときに、地政学的な視点を取り入れるとその騒動の目的や原因が面白いほどよく分かる。

地政学(geopolitics)は、地球(Geo)と政治学(Politics)を掛け合わせた合成語で、国の地理的な条件をもとに、他国との関係性や国際社会での行動を考える学問のことを言う。

「地政学的に…」と口走る人がたまにいるが、たいていの場合その国の位置(Geo)のことのみを指しているだけで政治的(Politics)な要素を含まずに使われているケースが多い。

この他国との関係性や国際社会における各国の行動を元に、“今、何が起きているのか”、“これから何が起こるのか”を考えてみると色々なことが繋がって非常に面白い。

国際社会のことを語りだす前にまず、国家の大前提が「生き残る為に戦っている」ということを押さえておく必要がある。

人は生きていくために食べていかなければならない。
食べていくためには獲物を取らなければならないが、獲物は常に取り合いなのでこれをめぐって争いが起きる。

一人で勝てなければ群れを作り、群れで勝てなければその群れをより大きくして強い集団を作り、縄張りを確保していく。
そして自分の縄張りを犯す敵を排除して獲物、(”獲物”は今で言うと地下資源であったりマーケット)を得ることで生きていく。
この行動は石器時代から現代に至るまで全く変わっていない。

地球は大きいが全体の約70%は海なので人は残りの30%の陸でしか生存できない。
だが、その30%しかない陸も砂漠や森が大部分を占めているので人が住むことができる部分は非常に狭い。

この狭い陸地に何十億という人間が住んでいるので縄張りを巡る争いは地球上のどこかで常に発生している。

地政学にはランドパワーとシーパワーという概念がある。
海に囲まれ、海をベースに勢力を広げていく海洋国家「シーパワー」、陸続きで他国と国境を接している大陸国家「ランドパワー」。
これらの勢力はその歴史、文化、民族などの国家的背景が似通っている。

シーパワーは船を出して外国との貿易で食べている貿易立国で、代表国はアメリカやイギリス。
世界の海洋を支配し、国際的な影響力を発揮している。

日本もこのシーパワーに分類される。

特徴は個々の人々が自由に動き回って国家の監督を受けないスタンスを取るところだ。
海に出てしまった人を国家は基本的に管理できないので国民が海賊になろうが海で遭難しようがそれは自己責任というスタンスをとる。

これに対してランドパワーは国家が人々を管理して国力を高めていく国家体制で、代表国はロシアや中国。
広大な陸地を利用して地政学的な優位を追求する。

大陸には全く雨が降らないようなところもあるし、川のそばで豊かなところもあるので、豊かなところから税金を取ってそうでないところに分配するという、「集めて配る」という国家による経済のコントロール、統制経済をやりたがるのがランドパワーの大きな特徴だ。

国家が人や土地を管理しているので国家所有の土地を利用している国民は基本的に国家の指示に従わなければならない。
ランドパワーのそれはまさに社会主義の基本的な考え方といっても過言ではない。

実際、四大文明と呼ばれる中国文明やエジプト文明ではこの「集めて配る」という社会主義的スタンスをとっていた。

社会主義革命がロシアや中国でうまくいき、ヨーロッパやアメリカで起こらなかった理由は中国やロシアの文明の成り立ちが古代から社会主義的に成り立っていたからだとも言える。

逆にシーパワー国家は古代から資本主義的スタンスを取る。
海を渡って世界を駆け巡る商人たちの行動原理は資本なのだ。

世界の歴史を振り返ると、この「ランドパワー」と「シーパワー」は、交互に入れ替わるように力を持ってきた。

15世紀頃までモンゴル帝国がユーラシア大陸一帯を支配し、ランドパワー勢力が優勢だった。
15-19世紀の所謂、大航海時代と呼ばれる時代ははポルトガルやスペインなどのシーパワーが覇権を有していた。
19世紀になって鉄道が登場するとランドパワーが台頭したが、20世紀には海軍力を持ったアメリカや日本が成長したというように、シーパワーとランドパワーのパワーバランス、つまり資本主義と社会主義の優位性は長期スパンで入れ替わり続けている。

このシーパワーとランドパワーのスタンスを抑えて各国の行動原理や対立を読んでいくと今どのようなことが起きようとしているのかおぼろげながら見えてくる。

これが地政学的視点というものだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?