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カレティエッラ、アラビアータ、そしてトマトとにんにくのスパゲティ

料理の稿です。
前回の稿に引き続き、トマトソースにまつわるお話。今回はこのトマトソースを使ったパスタの話ですね。

関東に住んでらっしゃる方だと、カプリチョーザ、というイタリアンチェーン店をご存知の方、多いと思います。
何より、学生時代とかに、サイゼじゃないちょっと背伸びした店に入りたい、でも個別店は敷居が高い、なんていう男女が選ぶお店として、よく使われているのではないでしょうか。

といいますのが、今でこそカプリチョーザはハーフサイズ、一人前も出してくれておりますが、私が学生時代を過ごした三十年前前後は、二人前からが基本量だったのです。
しかもそれが、けっこうな大盛り。
男女二人で行って、もう一品くらいサイドを頼んで(大抵ライスコロッケでしたが)お店を出る頃には、学生とてお腹がいっぱいになる。そんな良心的なお店です。

ふふ。私もかつてはよく行ったものです。
その頃友人だった女性が食にやたら詳しく、このお店を教えてもらったのも彼女からでした。

ここのお店の定番、看板メニューといえばなんといっても、

↑の、トマトとにんにくのスパゲティ
でしょう。

創業1978年、ということですので、当時スパゲティと言えばほぼナポリタンとミートソースしか日本人が知らない頃に、本場イタリアのパスタを出そうとした、ということですね。

ここからは、私の想像となります。
創業者。本多さんという方だそうですが、彼がイタリアの料理を学び帰国した際、巷に流行っていたのは喫茶店ナポリタンと、ミートソース。
日本人は食事に関しては好奇心と閉鎖性が同居しておりますので、イタリアの味そのままを出しても恐らく、受けは悪いと考えたことでしょう。
とくに、ミートソースに関しては、本場のボロネーゼを出したところで、日本人用にカスタマイズしたミートソースには評価で及ばない可能性があります。
イタリアンと日本料理。「旨味」を作る構成については似通っていますが、そのアプローチに正直に従うと、閉鎖性によってブロックされかねない。

考えたと思います。
その閉鎖性を破るには、既存の料理を何かでどかんと打ち破る必要性がある。
ナポリタン、ミートソースは、とかく日本独特の「旨味」を追求した結果の料理だ。
ならば、この「旨味」で超えて行かなければならない。と。

そして本多さんが出した結論は、おそらく。
アラビアータ、もしくはカレティエッラ。
だったのではないでしょうか。

私は最近知ったのですが、アラビアータとカレティエッラの違いは、イタリアンパセリが入るか否かによるそうです。
入ればカレティエッラ。入らなければアラビアータ。

ちなみにアラビアータから唐辛子を抜くと、ポモドーロとなります。
区分け細かい。さすが食にうるさいイタリア人。

さて。

いわゆるアラビアータ。もしくはカレティエッラ。
どちらを出すべきか。悩まれたでしょう。
かつてカプリチョーザのパスタを食べて思ったのが、
「嫌な匂いや味がいっさいしない!」
というものでした。
私は当時、わりと好き嫌いが多く、基本知らない匂いがする食べ物を敬遠しておりました。
知らない匂いというのは例えばイタリアンならオレガノだったり、バジルだったり、イタリアンパセリだったり(カレティエッラが脱落したのはおそらく、これが理由かと)。あるいはオリーブオイルの香りだったり。
今でこそ全て好きな香りですが。

またトマトの酸味も天敵で、トマトパスタは酸っぱいから嫌い! という有様。

そんな自分……。恐らく当時の日本人の大半、そんな感じじゃなかったでしょうか。
好奇心はあるものの閉鎖的。嫌な味は、香りは、できるだけ避けたい。

なのでおそらく。

当時の(今はたぶん違うのではないかと思うのですが)アラビアータ、改め、トマトとニンニクのスパゲティは、サラダ油を使い、トマトソースの命とも言うべきバジル、オレガノを抜き、代わりにニンニクとパルメザンチーズを強烈に効かせることで旨味を補強した。
そういうことなのだろう。
そう、考えます。

また、トマトそのものではなくトマトピューレを使い……つまり前回の稿で言うところの「種と皮を取り去った」トマトを使い……、酸味もマイルドにしており、さらに砂糖、もしくは蜂蜜を加えてまろやかさも追求していたのではないか。
そう考えます。

とかく私も何度もカプリチョーザパスタの再現を試みてきた過去があるのですが、けっきょくなんとか形になったのはほんのここ最近のことです。

上記の「想像」は、過去再現をする時にネットの再現レシピを漁り自作しては
「これは違う!」
と改良を重ねていた時に、創業者の方の「日本人用にカスタマイズしようとした」苦労が重なって見えたように感じた、その結果です。

ではなぜ、巷の再現レシピはオリーブオイルもトマト缶も使っているのでしょうか?
それは、とりもなおさず、その再現された方が、オリーブオイルの香りもトマト缶の酸味も、むしろ好きだからではないか、と思うのです。

いまや日本人はイタリアンにもすっかり慣れ、今の私のように、オリーブオイルも、バジルも、オレガノも、ことによるとパルミジャーノどころかペコリーノ・ロマーノまで自宅にストックしているかもしれない。そんなところまで来ています。
そんな日本人の舌の成長に伴い、カプリチョーザの本来のレシピは、個別店と比べて格下的に見る方も、もしかしたらおられるかもしれない。
また、本場のアラビアータは、カレティエッラは、あるいはポモドーロは、と、現地の味と比べてその「まがいもの」加減をなじる方も、もしかしたらいるかもしれない。
そういう危惧が、私にはあります。
事実いっとき、カプリチョーザは東京にて苦戦し閉店する支店もあったようです。
しかし。
あの、本場を学んだうえで徹底的にカスタマイズ、ローカライズを重ね、研究し、研鑽の末あみだされた「日本人好みの」パスタは、それでも今も一部のファンの心を捉え続け、根強く残ってくださっております。

このような味に敬意を表し。
私は今宵も、カプリチョーザ、トマトとニンニクのスパゲティを作り出すのでありました。

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