投資信託の複利効果は本当に起こりえるのか? について

某SNSでの話題を元に、一度だけちょっと深く考察するだけの文章です。
今回は、投資・資産管理系情報サイト"Finasee" より、ある金融ジャーナリストの論説記事について触れていきます。

内容はこちら

「投資信託の複利効果を示す計算式を真に受けてはいけない!」
と、大上段から気持ちよくぶった斬ってくださっています。
実は、私も、投資信託における複利効果については、疑問を拭えない部分があるにはあります。
しかし残念ながら、記事の内容はその理解以前の段階で右往左往しているように見えます。
この方。もとは証券会社の支店営業マンで、投資信託の知識を元に証券業界紙の記者をやっていた、とのこと。
その道のプロではありますが……。

さて。

この稿では、投資信託において、「複利」が発生するその原理について、一度基本的なことをおさらいしておきましょう、というのを目的としています。

※なお、以後使用されている「ファンド」という言葉は、日本で買える一般的な「インデックスファンド」を想定しています。間違ってもアクティブファンドではありません。私は心の髄まで、アクティブファンドを憎んでおります。



単利と複利


利子には二種類あります。単利と複利です。
単利は、利子を計算するための元本が「固定」されている利子算出方法
複利は、利子を計算するための元本が「利子分を加え続けて変動」する利子算出方法
です。

例えば、1万円を年利5%の「単利」で借りた場合。
1年後に返すべき金額は1万5百円。もし2年後に返した場合は、1万1千円となります。元本は1万円から変動していないので、

元本+元本×金利×年数 

が返済すべき金額となります。

これに対して、1万円を年利5%の「複利」で借りた場合。
1年後に返すべき金額は1万500円で変わりませんが、もし2年後に返した場合は、1万1,025円となります。1年後には、元本が1万500円と変動してるのでこのようになります。
以後は、

元本×(金利+1.0)^年数 

が返済すべき金額となります。

複利で運用すると、資産は指数関数的な増加を見せる、ということになります。もちろん、複利で借金をすると、借金も指数関数的に増加するということです。複利怖い。

投資信託(ファンド)が複利効果を生むカラクリ


ファンド(ETF含む)は、株などの債権を買う際の決め事を先に作って、その条件下で債権を売り買いし利益を得るしくみです。
株式ならば、値上がり益(キャピタルゲイン)や配当益(インカムゲイン)が決算ごとに発生し、株主に還元されます。
株主がファンドの場合、その株を買っていたファンドは値上がりをしたり配当を得たりできるわけです。

まず、ある仮想の2社の個別株について考えて見ます。

例えば株価が、1年後1.05倍になり、2年後さらに1.05倍……というふうに、指数関数的に株価が上昇していけば、その株はもろに複利の効果を発揮しております。が、まぁ、そううまくいくものではございません。

ここでは仮に、Aという株があるとします。株価1,000円で無配(配当金を出さない株のこと)だが、毎年50円ずつ上がっていく、とします。単調増加です。
また、Bという株があるとします。やはり株価を1,000円とし、決算期に5%の配当を毎年出すものとします。
もしB株のこの株価が変わらなければ、B株を持っているだけで常にB株の株価の5%、1株あたり50円の配当金を得ることが出来ます。これまた、B株の値段はずっと変わらないので、毎年1株あたり50円ずつ所有者の資産は増えていくことになります。単調増加です。

さて。
A、Bを同数ずつ組み合わせたファンドを買うことを考えてみましょう。
A、Bの増加は、「単利的」な増加です。A、Bという個別株を所有しているだけでは、単利の効果しか得られません。

しかし。
Bの株式投資で得た配当を、「再投資」することを考えてみます。
すると、次年度は、

Aの値上がり益+Bの配当+前年度Bの配当再投資分の利益

が得られることになります。
もし、前年度に投資した株がAならば値上がり益(キャピタルゲイン)が、Bならば配当金が、前年度のベースにさらに加算して入るわけです。

こうして、次年度以降の利益は、前年度までのB株式の全ての配当金がプラスされた状態でかけ算されていくので、いわゆる「複利」での資金増加が見込める、ということになります。

実際の投資信託は、さらに分散投資されている


「ならば、Aの株は無駄じゃない? 高配当株だけをポートフォリオに組み込めば無敵じゃん」
そう思った方もいるかも知れません(※そう考えて高配当株のファンドに積立をしている方も実際に多くいらっしゃいます。また逆に、配当は会社の時価総額を削るだけの行為なので、配当を出す会社などいらん。必要なのは成長企業か自社株買いをする会社だけを選ぶファンドだ! と考える方もこれまた多くいらっしゃいます)。
これは、A、Bだけ、という、ほぼ集中投資と言ってもいい状態のため、そう思えるのです。
実際は、A以上に加速度的に株価が成長しているCやDという企業にも、Bよりさらに高配当なE、Fという企業にも、逆に、今は調子が悪く、赤字から業績を下げ、配当も下がり、株価も落ちているGという企業にも、「時価総額加重型平均」という平均の出し方を用いて、全て投資するのが「ファンド」なのです。

「全て」という言葉が指す株式(構成銘柄)は、その投資元のファンドによって異なります。「日経225企業(東証プライム上場企業225社)」だったり、「TOPIX企業(東証に上場している企業2000社以上)」だったり、「アメリカS&P500(NYSEやNASDAQに上場されている代表的な500社)」だったり、「全世界(MSCIでは、全世界の企業およそ1300社)」だったりします。

ここまで広く分散投資をすると、「指数」に注目することで、ある程度の「予想」が出来るようになります。

日本企業が、アメリカ企業が、あるいは世界企業が、今後どの規模で成長し、どのような速度で成長していくのか。成長した企業は、いったいくら配当を出すのか。このような企業予測と成長指数は、たくさんの証券会社やトレーダー、銀行、ファンドマネージャー、一般人から、多く出されています。詳しく知りたい方は、自分の好きなものを参考にされると良いと思います。そしてまさに、その、「好きなもの」を根拠に構成されているのが、世に出ている様々な「ファンド」ということになります。日経225だったり。TOPIXだったり。S&P500だったり。全世界だったり。

世界に注目するなら、成長速度は2100年まで右肩上がり


A、B株だけに注目していると分かりませんが、世界企業全体でみると、世界経済は2100年まで右肩上がりに成長する、という目論見となっております。
もちろんその途中には、昨今のコロナやロシアの戦争、中国の成長と崩壊、アメリカの迷走、先進国の少子化などなど、いろいろな不安要素をはらんでいます。
が、世界人口だけに注目するなら、2100年までは右肩上がりです。
なので、経済参加人数が増えれば経済は成長し、経済が成長するなら株価も成長する、といういつもの理屈に落ち着きます。
この成長関数は、だいたい5%成長の指数関数型になる、ということです。

つまり。
全世界株式のファンドを一つ、買っておけば、途中紆余曲折はあるものの、世界企業の年間5%成長プラスそれら世界企業のうち、配当を出す企業の配当金を手に入れることが出来る、という計算になります。

ただ、ファンドは私企業が運営しているので、その間管理費用もかかりますし、配当金は当初ファンドが予定している1~2%前後に押さえられて「分配金」という形で支払われることになりましょう。その分、ファンドを通じて得られる利益は目減りはします。
ですが、やはりこの1~2%の分配金を毎年再投資にまわし(自動で再投資してくれるファンドもあります。また、最初から分配金を出さないとしている、無配のファンドもあります(こういうファンドは、得た配当金を再投資することが得てして前提となっています)。これ重要)、またファンド自体の値上がり益も加味すると、よく言われる、
「年間5%前後の複利の利回り」
を、そのファンドを買うことで手にできる、ということになるわけです。

このように、ファンド投資の複利効果というのは確かにあるのですが、同時にリスクも存在します。
ファンド投資も含め、リスクが大きい投資というのは得てして不安が安心に勝ってしまい、狼狽売りや衝動買いによる損失と切っても切れない仲にあります。
そんな中で、ドルコスト平均法などの積立投資を地道に続けながら、他の人が年20%の爆益をたたき出したとか、他の人が中○株で大損して一家離散とか、そんなニュースを横目で見つつも聞き流し、一般的で妙味の少ない「世界平均」の利益を何十年後かに得る。

これは意外と骨の折れる作業なのです。

理想は、いつも理想。
人間とは、欲深いものなのです。






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