森永卓郎が的を外し始めた日

某SNSでの話題を元に、一度だけちょっと深く考察するだけの文章です。
今回は、具体的な記事について投稿された、投資に関する内容となります。
なお本稿は、投資そのものを推奨する意図で書かれたものではありません。自身で投資を始められる場合は、余剰資金かつ無理のない額から行うことをお勧めします。なお、事前準備としては、

難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください!
(山崎元、水瀬ケンイチ)

を一冊読むだけでOKです。

新NISAすら陰謀論の対象とするのが某SNS界隈の頭れいわな人たちの特徴ではあります。が。
森永卓郎氏すらその尻馬にのっかってるのがいただけません。
具体的な記事はこちら

では、以下、理由です。
筆者調子に乗っているため、ですます調でなくなってます。申し訳ございません。失礼をいたしました。平身低頭でございます。ふん。

――さて。

森永卓郎と言えば、年収三百万時代という日本のデフレ突入を言い当て、その処方箋として金融緩和を推奨し、国債発行をすべしと説いた方だ。物言いは好きではなかったが、その論には私もある程度の信頼を寄せていた。
それが、これだ。

がっかりだ。

記事の詳細はリンク先を見ていただくとして、森永氏の論のなにがまずいのか、さらっと箇条書きにすると、以下の3点となる。

  1. 積立投資、長期投資の根幹が分かっていないか、あえて触れずにいる

  2. スイングトレード(短期トレード)を推奨している

  3. GAFAM凋落と全世界ファンドの高騰・下落は究極、「関係ない」


積立投資、長期投資の根幹が分かっていないか、あえて触れずにいる、について


積立投資というのは、簡単に言うと、長期投資することを前提で、ファンドの値動きに一喜一憂せず、「ドルコスト平均法」の考えを用いて、結果的にファンドの(……つまり、そのファンドが狙う市場全体の)上げ幅分を獲得する方法になる。
なので、はっきり言ってしまうと、その途中、出口戦略前の段階で、ファンドの値動きがどんなに上がろうが下がろうがあまり関係がない、とも言える。
ドルコスト平均法を用いれば、値段が下がればその月は購入量が増えるし、値段が上がれば購入量は減る。購入額で見れば常に毎月一定である。
この買い方をすると、そのファンドの最終的な騰落率だけが問題となる。
いわば、「出口戦略……『売り抜け』時に、ファンドが最初期より値上がりしていれば全てが成功」ということだ。
※ゆえに、購入ファンドが右肩下がりのままで売り抜けた場合、確かに森永氏の言うように損失となる。

世界経済が下がるから買うな、基準価額が落ちるまで購入は待て、という甘言は、長期投資・積立投資を始めようと考えている初心者がもっとも陥りやすい罠であり、この発想をするようでは長期投資には性格的に向かない、と考えた方が良い。
「を! 基準価額が下がった! 今月はいっぱい買えるな!」
という気持ちになれる人こそが長期投資向きであり、長期投資、積立投資を行っている人は最終的にこの考えに落ち着くものなのである。
いわば、森永氏の言は、長期投資推進者から見れば、典型的な「素人の揶揄」に過ぎないのだ。

スイングトレード(短期売買)を推奨している、について


森永氏がその論評の中段で披露している「労働価値説」は、のちの社会主義者によって支持されている学説なので私自身好みではないが、聞くべきものがない、とは言わない。資本主義下にあっても、十分意味のある言葉として刻むべきだと思う。
また、その労働価値説に着目して、現在のGAFAMの株価がいわゆる「バブル」にある、という考えも否定はしない。実際私もそうだと思う。
が、バブルであろうと、どこまでがバブルなのかは、はじけてみないと分からないものだ。そういう意味では、注意喚起として一定の評価はすべきだが、いつかも分からないバブル崩壊に怯えて投資全体を手じまいするというのは少し考え違いをしていないか。
まして、バブルが崩壊して株価が下がってから買え、というのでは、そもそもファンドに投資を信託している意味がない。そもそも、ファンドの値動きにつられて売り買いを頻発するのは、個別株でいう「スイングトレード」の亜種であり、それをファンド上でやれというのはファンドの意義を理解していない素人の所業である。
というか、暴落まで買い控え、暴落を待って買い、高騰した後天井前で売る、というのは投資家が誰しも夢見る理想ではあるが、現実にはそんなことは出来ない。(だからこそファンドに託し、長期で市場平均分の利得を手にするのだ)
まぁ、そんな芸当が本当に出来るというんなら、ファンドに頼らず個別株を自力でいじればいいだけである。
※そして、酷い目にあって市場から退場する。天才と呼ばれたファンドマネージャーが、いったい何千人、何万人この幻惑した値動きにやられ、お星様になってしまったことか……。

GAFAM凋落と全世界ファンドの高騰・下落は究極、「関係ない」について


そもそも、例えば「全世界株式のインデックスファンド」を購入するならば、仮にGAFAMが驚異的な凋落傾向となり、沈んでしまったとしても、年単位ぐらいで、ファンド元が勝手にGAFAM以外の世界のどこかの優良企業に「買い換え」を行ってくれる。なのでGAFAMが沈没したなら、他の企業の成長で(ファンド立ち上げ側が、我々が意識すらしていない間に)カバーするだけなのだ。全世界株式のインデックスファンドというのはそうしたものなのである。で、我々はそれを、当該ファンドの目論見書などを見て、ああそうなんだ、と後付けで理解するだけだ。

ただ、一年の中で見るならば、GAFAMがその年で急に凋落したとなると、確かに全世界株インデックスファンド、あるいはS&P500などの米国株を網羅したファンドは、GAFAMが主要投資先となっているため大打撃を受けるだろう。その様子はおそらく、2008年に起こったリーマンショックを覚えておられる方ならば、混乱ぶりは容易に想像できることだろう。
が。
問題は、その先だ。
そのまま下落しっぱなしで右肩下がり……まあその可能性もなくはない。米国・ヨーロッパ連合がロシア・中国あたりと本格的な戦争に突入し、あまつさえこの悪の枢軸に敗北など喫した暁には、全世界株などゴミに等しい価格となるだろう。
可能性を押さえておくことは悪くはないし、投資に絶対はない。それはそうだ。
しかし、リスクとリターンを天秤にかけ、高い可能性にかけていくものにこそ、投資の神は微笑むものだ。ただし……欲をかきすぎた者には容赦なく地獄への扉を開くものだが。

おそらく。
一時的な下落は起こるだろうが、世界経済が全て沈没したまま、ということはない。いちおう、世界人口は2100年あたりでも右肩上がりで推移するし、アメリカの労働人口も増え続けると予想されている。
経済の参加者(パートナー)が増えるということは、経済が成長するということとイコールであり、経済の成長は市場の成長とイコール。市場の成長は株価の成長とイコールである。
右肩下がりのまま下がりっぱなしだった「はずの」日本経済でさえ、実体経済が伴わないバブルっぽい様相といえど、日経平均は「あの」1989年のバブル期の最高値に迫っている。これは紛れもない事実であり、経済というのは「ゆるやかな周期を描きながら好不調の循環をするものだ」という「原則」には素直に従うべきではないか、と思う。

なお、森永氏は米国債権への投資も勧めておられるが、「今」利率が高いだけで、その騰落は株価と同じで国の胸先三寸で変えられてしまうものだ。その高騰下落の不安定さ(ボラティリティ)は、株式のそれと大差ない。
まあ、確かに米国債という債権は、米国という「国の倒産」(デフォルト)の確率が私企業よりはずっと低いという理由で、株式よりは「安全」とは言える。今の米国債の利率が「株式のそれと比べてお得」だと思うなら、購入にやぶさかではない。
しかし、例えば米国債の十年債を一括購入してそのままほんとに十年寝かせれば、今なら4%強の利率だが、これは「単利」である。
長期投資の妙味である「複利」を債権で得るためには、たとえば債権のファンドに投資するとか、ゼロクーポン債を買う、など、手はあるにはある。が、それこそ株価と同じでその「価格」はじゃんじゃん変動するし、為替リスクも存在する。
そういう意味で、長期投資に「勝てる」投資だとはとても言えない。
というか、私はアセットアロケーションに債権を加えてリスクヘッジとするという発想自体に疑問符を抱いている。が、この話は長くなるのでここでは触れないことにする。

いずれにしても、森永氏の憂慮する「GAFAMの凋落」は、世界経済全体から見れば、「そりゃ下がったら一時的に痛いけど、一時のことでしかないよね」という程度のことである、と言えそうだ。

結論


以上のことから、私はため息をつきながら以下のようなことを言わなければならないことに、少しの悲しみを覚えている。

「あの森永氏が、ここまでの人になってしまったか……」

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