
暮瀬堂日記〜金木犀
上野で納品を終え、清洲橋通りから神田和泉町に向かい、ライフの沿道に車を停めて休憩に入る。
ドアを開けると芳香剤のような香りが漂っており、辺りを見回すと、入口脇に金木犀が花をつけていたのである。
買物客は全く気にする様子も無かったが、そこにだけ風が吹いてでもいるかのように、四方に香りが流れて行った。
根元にこぼれた花を手に取れば、手のひらの上にも風が起こるように香りを発散させるのだった。
消臭剤の代わりになるだろうか、と車の中に置いて仮眠をとっていた。
ラジオの声が夢の中に埋没しかけたとき、風の気配で目が覚めたが、相方がエアコンを強めただけであった。
しかし、それも金木犀がそうさせたのではないか、と一句をしたため再びまどろんだ。
木犀は風のオアシスかもしれぬ
いつか相方の方からも鼾が聴こえていた。
(新暦九月二十八日 旧暦八月十ニ日 秋分の節気 蟄虫坏戸【むしかくれてとをふさぐ】候)