暮瀬堂日記〜芋
横浜も緑区や青葉区になると田畑が点在するようになる。
綱島から相模大野ヘ向かう途次、ある交差点で信号待ちをしていると、盛土された畑にコスモスが植えられ、その奥に里芋が大きく葉を広げていた。
1メートル以上の丈を支える芋茎(ずいき)は丸々と太り、土の中の芋の姿が想像された。
遠目ではあるが、葉の上には朝方まで降っていた雨がとどまり、この後どこに行くべきか思案しているようだった。
ーーこの雨は、自らが水であることを理解しているのだろうか、普通なら土に戻るべきなのに、しぶとくしがみついているのだから…。
などと思っていると、信号が青になった。そして、車が動き出そうとしたとき、雨は行くべきところを決めたようだった。
芋の葉を転げる雨と露つるむ
老眼気味であるが、視力は2.0であるので、見間違いではないはずである。
「あっ…」
助手席にいる私の発した声に、
「どうかしました?」
と後輩に尋ねられた。
「いや、なんでもない…」
と答えたが、彼は暫く、不思議そうに私の方をチラチラ見続けていた。
※芋。芋茎。露。……芋と露は三秋の季語。露の副題に「芋の露」もあるように、広い葉は露を結びやすい。甲斐の俳人、飯田蛇笏の「芋の露連山影を正しうす」は有名である。芋茎は仲秋。
(新暦九月十一日 旧暦七月二十四日 白露の節気 草露白【くさのつゆしろし】候)