暮瀬堂日記〜赤のまま
ジョギングをしようと外に出るが、ついつい野草に目が行って、立ち止まること頻りとなった。
公園の花壇に露草が花を開いていたが、その隙間を縫って顔を覗かせているのが「赤のまま」であった。
走っていては見落としがちな花であるが、足を止めれば愛らしさに暫し時間を忘れてしまう。
一般的には「犬蓼」の花であり、粒状になる薄紅色の花穂が赤飯に似ており、しごき取ってままごとに使われたりしたことから、「赤のまま・赤のまんま」とも呼ばれる。
青い空のもとに古びた煉瓦が映えて、傍らの草間に伸びる露草と赤のまま、往来する人々はただ通り過ぎていくが、ようやく訪れた秋に嬉々としたのか、小さな羽虫や蝶などが立ち寄るのだった。
どれくらい佇んでいただろうか。笑い声に振り向くと、ブランコに乗ってはしゃいでいる子供たちだった。無論ままごとをする素振りも無く、この花が「赤のまま」であることも知らぬまま家路に就き、日暮れることだろう。
とりどりの虫の見に来る赤のまゝ
往来で吾のみ見つむ赤のまゝ
赤のまゝあれど童はブランコに
三句を手控え、再考の余地があるだろうな、とジョギングを終いにして帰途についた。
(新暦十月ニ十日 旧暦九月四日 寒露の節気 蟋蟀在戸【きりぎりすとにあり】候)