暮瀬堂日記〜草の穂
霜降の節気も末候「楓蔦黃(つたもみじきばむ)」となり、今月七日には立冬を迎える。
北国の出である私は、まだ半袖で出歩くこともあるが、それもここ数日までであろう。
この日も半袖で草の野を歩いていると、虫の声のしないことに気がついた。音というのは不思議なものである。鳴り始めは床しきことと耳をそばだてるが、静かになると気づかずに過ぎてしまう。しかし、俳諧師たちはそういうことに敏感だったのであろう。
花は色々なものの題材になるが、枯野や枯草、草の穂など色褪せたものを詠みこむのは、俳諧特有のことではあるまいか。
そんなことを思いつつ草野を歩いていると、蒲公英が一本のみ立ち、絮毛をたたえていた。もし、触ったら飛んで行くようで、写真に収めることにした。
だが、シャッターを切った途端に、絮毛は震え、ひとつが舞ったのを皮切りに、瞬く間に空に飛び立った。
草の絮空より軽くなる日かな
しばらく彼らの行方を見守っていた。
(新暦十一月ニ日 旧暦九月十七日 霜降の節気 楓蔦黃【もみじつたきばむ】候)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?