恋の行き先。〈12〉
チーチチチッ!
鳥の声が聞こえる。
朝一番にご飯を炊いた。おかずは和食にして。
今夜からお節を少し作ろう。
下手でもいいのだ。
心を込めて。
私はできるだけ普段着で優しい服を選んだ。
ウールのセーター、スカート、ルームソックス。
割烹着も来てみた。三角巾も。
今日から日本の年末年始を彼に味わってもらおう。
敦史が起きて来た。
驚いている。
敦史「くれはが奥さんみたいになってる!」
明るく彼を包むように微笑もう。
使いやすいお箸や食器を並べて、精一杯のご飯。
私はここに居るよと安心させよう。
たとえ離れても、瞬間瞬間が彼の支えになる記憶になればいい。
くれは、とハグして来た。
猫みたいにスリスリしている。
敦史は子供返りしたのかな。
甘えたくて仕方がないのた。
充分に甘えさせてあげよう。
敦史「くれは、一日中ベタベタしていい?」
私「もちろんいいよ。あーんして、味見。」
敦史「くれはにしては美味し。」
私「私にしては?ふふ。」
味噌汁、だし巻き卵、菊名のおひたし、シャケ。
今朝はいたってシンプル。
食器を洗っている最中も彼は背中にくっついている。
昨日、本当に堪えたんだな。
熱いお茶を淹れ、窓際の椅子に座った。
熱そうに飲んでいる彼を見ながら、ふと思いついた。
ペットはどうなるかわからないから、庭に鳥を呼ぼう。
水浴び場や鳥の餌、フルーツ。
鳥が来てくれたら、それが一番いい。
私「敦史、鳥の餌場を作りたい。」
敦史「それはいいね!作ろう!材料を買いに行くか。でも大事な物を買うのを忘れてるよ。」
私「大事なもの?」
敦史は私の唇を唇で塞いだ。
長いキスをしてから「ふ、と、ん 」と言った。
すっかり忘れていた。
慌てて買い物に出かけた。
つづく