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くれは自叙伝〈12〉
「お父さん、中学を出たら能面師に弟子入りしたい」
父は唖然として私を見た。
私は小学生の頃、能面師のドキュメンタリー番組を観て、雷に打たれたようになった。
私は能面師になろう。
決意は変わることはなかった。
小学生の頃からプラスチックの下敷きに能面のスケッチを鉛筆で描いては、訂正し、自分なりに研鑽しているつもりだった。
ある朝、机に置いた下敷きが無くなっていた。
辺りを見渡すと、下敷きの破片が落ちていた。
あっ!と私は声を上げて、さらに探した。
破片は窓枠に集中して落ちていた。
私は駆け出し、屋外の窓の下を見た。
無惨に下敷きは破られ、二階から捨てられていた。
そんなことをするのは兄しか居なかった。
父に能面師に弟子入りすると告げると、父は言った。
「せめて高校を出なさい。お前の成績で高校に行かないのはいかん。高校でじっくり考えてからにしなさい。」
問答無用の空気の中、能面師にツテもない自分は萎れ、高校に行きつつ師匠を探そうと思った。
流されるように進学校に行った。
学校では部活が奨励されていたが、皆んな大学受験を視野に入れて、そんなに部活に熱心になっているようには見えなかった。
私は以前から機会があれば剣道をやりたかった。
姉が私立の大学で剣道を始めていた。
私は一応報告しておこうと、剣道部に入るつもりだと告げた。
姉はそれを聞いた瞬間「真似するな!」と怒鳴った。
思いも寄らない言葉を聞いて私は驚いた。
「絶対、私の真似するな!剣道をやったら許さへんからな!」と、怒りながらどこかへ行った。
私は漠然と考えていた。
もし普通の姉妹ならば、姉は愉快に思い、教えたり手合わせして楽しむのではないのかと。
私は諦めて、合気道部に入った。
合気道は三十歳手前まで、休みながらも続けた。
つづく