見出し画像

恋の行き先。〈10〉

今日、彼は決めかけていた転勤先のマンションを見に関東に行った。
私は彼の実家に移るべく荷物をまとめ出していた。

あんな広い家に…掃除して、家が傷まないようにしておこう。
実家管理人としての務め。

彼は正月休みが終わると関東に引っ越して行く。
私は彼がこちらに居るうちに、彼の実家に引っ越す。
私の家具は彼の職場の人たちが手伝って運んでくれることになった。
やはり大部分をリサイクルした。

何もかもが急だけれど、身を任せてみよう。

急に立ち止まるように胸が寂寥感で苦しくなる。
それは別れが近づいているからだと知る。

私が木々の茂るあの家に移ろうと思ったのは、自分を変えたかったからだ。
木々や鳥の声は私を慰めてくれるだろう。
彼の留守番を預かるという役も、彼と繋がっていたいから選んだのだ。

指に光る指輪を見ると、知らないうちに時間が経ってしまっている。

思ったよりも早く事が動き、私は気がつけば高台の家に荷物と一緒に居た。
ひたすら暮らしやすいように整理して行く。
たった一人空間にポツンと居ると世界が止まったようだった。
暖房をつけて、さあ、お風呂に湯を入れようと半ば呆けていた時、突然、リビングのドアが開いた。
きゃーっ!と、叫んで座り込んだ。

敦史「驚いた?急いで決めて来たよ。疲れた。正月明けまでここに居れる。」

座り込んだまま見上げて居ると敦史は叫んだ。
敦史「ああ!ここには布団しかない!?」

私を引き上げながら、しまった!ベッドを買っとけばよかったー!と彼は言った。

私「和室に布団で寝れば大丈夫じゃない?そこまで重要?」

敦史「和室でシングルの布団一組だけ!?ありえない!」

布団を明日買い、自力で持って帰るしか広く寝る方法はなかった。
もう年末で配達などしてくれないからだ。

和室で一組の布団で眠るなんて。
私「リサイクルしすぎちゃったかな?」

敦史「いいよ、これも新鮮。」

行燈に優しく照らされて、敦史は珍しく眠ったようだった。
私は行燈の灯りを消そうと布団から身体を伸ばした。
そのとき、身体を敦史に抱き締められた。

つづく


いいなと思ったら応援しよう!