くれは自叙伝 〈1〉
階下で物音がして、幼児であった私は目が覚めた。
階段を降り、居間に行くと私は目を見張った。
幼児であっても、わかることはわかってしまう。
座卓を盾に母が泣きながら怯えていた。
ちょうどその座卓に父が包丁を振り下ろし、突き刺したところだった。
立ち止まったまま、私はこの修羅場を見ていた。
二人は私に気づき、母は涙もそのままに渡りに船という感じで、私に駆け寄り、さあ上に行こうと手を引いた。
私は父を見た。
父は忌々しそうな表情で、怒りが収まらない様子だった。
ただ、父は一人でそこに居たのではなく、商売の番頭をしていた父の右腕である男性がそこに一緒に居た。
その時の私の記憶はそこまでなのであるが、父と母には何らかのわだかまりがあることに、気がついてしまった。
私は幼稚園に入る前の年齢であった。
つづく