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恋の行き先。〈8〉

勇気を出して訊いてみた。
私「敦史はあの実家に荷物を置いて行くの?持って行くよね?」

敦史「…家具は全部、店でリサイクルする。パソコンや服、家具以外を車に積んで行くよ。充分積める量だしね。」

私をハグしながら、
敦史「家具は向こうで揃える。」

いつ行くの?家は探した?と、心の中で訊いた。
口に出すことが怖かった。

家具屋に着くと、まずは何から見るのかがわからないけど、ダイニングテーブル辺りを眺めていた。
敦史「くれは、三階。」
エレベーターで三階に。
扉が開くとベッドが並んでいた。
敦史はツカツカと歩いて行くと、私を手招きした。

敦史「これぐらい?」
敦史はベッドに横になり、自分の横をパンパン叩きながら、寝てみてと言った。

おずおずと横に寝ると、店員さんがやって来た。
敦史は腕を出し、ほら、腕枕。と言った。
腕に頭を乗せてみたものの、店員さんが注視している。
ちらっと店員さんを見ると、スーッと席を外してくれた。

敦史「狭い。これでダブル。」
別のベッドにツカツカ歩いて行く。

敦史「くれは、ここ、ここ。」
またパンパン叩いて寝ることを促す。

敦史「クイーンサイズで、ちょうどかな。」

敦史の一番の目的はベッドのサイズ選びだったとわかった。
店員さんに硬さの説明やメーカーのマットの特徴など熱心に訊いていた。

敦史「上で暴れてもこのコイルだと大丈夫?」と耳にした辺りで静かに隣の布団コーナーに逃げた。

家具屋を後にし、伊勢に出発した。
敦史「あのメーカーのクイーンサイズにしよう。関東圏でベッド買うか、どうするか。」
敦史がクイーンサイズと言うたびに恥ずかしくなった。

高速道路から景色を眺めていた。
黙ってこうして景色を眺めるのが好きだった。

太陽が沈む頃、伊勢近くのSAに到着した。
敦史「今夜はここで休んで、明日の早朝に伊勢に入ろう。」

SAのレストランで夕食を済ますことにした。
こういう旅が懐かしくて楽しかった。
今夜はクリスマスだけど、明日は誕生日だ。
そんな日に私を車中泊させてくれる敦史に感謝しかない。

食事をして、トイレで歯磨き、顔を洗って、車に戻った。
スウェットの上下を着ようとすると、昨日着たようなピラーッとした服が用意してあった。
仕方なくそれを着ると、スマホを見ていた敦史が、サッと押し倒して来た。

まさか、するの?

どうしてこればっかりになるのかと思ったけれど、私たちにはもう時間がなかった。
だから私は毎日であろうが、嫌がらなかった。
近いうちに離れて暮らし、そんなに会えなくなるだろうから。

車の中だから、静かに始めた。
それが新鮮だった。
0時を回った。
26日誕生日だ。
敦史は少し激しくなり、私がイク瞬間に彼はペアリングの上に、別のリングをはめた。

私はそれを確かめることもできず、崩れ落ちた。

抱き締められて意識もしっかりしてくると、そのリングはクロムハーツの18金の指輪だった。
ペアリングと重ね付けすると、おしゃれだった。

私「これは?」
敦史「ハッピーバスデー。ピアスもお揃いだからつけてあげる。」

ピアスもつけ、明日ちゃんと見ることにして、身体が気だるくなったまま敦史に抱かれて眠った。


つづく


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