『時実新子全句集』を1年分ずつ読むnote #6

キューピーのおでこはじいてすぐ起こし
企みをのぞくキューピー目がつぶれ
風邪の日のキューピーについた指紋よ
キューピーと出る旅のことひたかくす
向き合って兎のように食べている
手と足がやたらと伸びてくる怖し
友Aと書き冷酷と書き加え

『時実新子1955〜1998全句集』より

1960年、新子31歳の308句から7句引用しました。
「キューピー十二句」というキューピー人形を詠んだ連作が印象に残りました。
有名どころでは「凶暴な愛が欲しいの煙突よ」もこの年でした。

向き合って兎のように食べている
小池正博の「これからは兎を食べて生きてゆく」(『転校生は蟻まみれ』)と並べると、「これからは」に「承前」みたいなニュアンスが生まれて面白い。
「兎のように」食べるのはおそらく草でしょう。
「これからは」にはかつて「向き合って」いた他者はもはや存在せず、兎の命を奪って生きるという怖い決意表明すらしている。(もちろん、「動物の命を奪わない」と決めて生きている人以外は口には出さずとも「兔を食べて生きて」いるわけだけど。)

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