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令和の今、かけるべき言葉は

まけるな がんばれ ピッカ ピッカ (多分)そんな歌で生き辛さを抱えた昭和末期の子供達を穏やかに追い詰めたアニメソングがありました。

イジメっこなんて だいきらい がっこう なんていきたくない その歌詞に続くのが上記の歌詞。イジメ電話相談でも回答者の常套句が「がんばりなさい」だそうですが、テレビアニメからまで「がんばりなさい」と言われ、全国のイジメ被害児童は絶望したことでしょう。

そのアニメソングに登場していたのは国民的漫画作品の「まるでだめお」な主人公でした。成績が低く、やたら昼寝好き。作者のふじこ先生を投影したキャラに自らを重ねた少年達も少なくなかったことでしょう。

しかし、その主人公も名前の通り、のびのびとしていたわけではなく。話によっては自律性のある石からしきりに頭をぶつけられながら、長距離を走らされたり、体格の大きなライバルとボロボロになるまで戦わせ、読者の涙を誘おうとする感動ポルノに使われたりと、かなり教育虐待なエピソードがあったものです。それをさせたのは昭和という時代の風潮だったのでしょう。

その主人公を登用したのが冒頭で紹介したイジメ被害児童応援ソングです。製作者は善意のつもりだったのでしょうが、あの作品を見て、勇気づけられた児童が果たしていたかどうか甚だ疑問と言わざるをえません。

「オレのものはオレのもの お前のものはオレのもの」などと反道徳的なメッセージを唱え、不当な暴力で弱者を屈服させることがまかり通っている残酷な日常にそれでも「がんばれ」と歌って婉曲的に登校を促す、その結果が全国、公称100万人のヒキコモリではないでしょうか。

無気力で自発性がなく怠惰で他責で他者に辛らつ。私がかつて、ネットの掲示板で交流をしていたヒキコモリの人々の印象です。彼、彼女らがそうなったのは家庭教育と学校教育の失敗だったでしょう。

親からは邪険にされ、同級生からは疎外され、イジメを受け続け、教員は無関心かイジメ加害に同調すらしてしまう。そうやって、人間不信になり、自己肯定感は根こそぎ失われ、意欲を喪失し、やがて、一切の生産的な活動を放棄してしまう。

彼、彼女らは引きこもることで親に、世間に、無言の反抗を続けているようにも私には映ります。自分の人生を棒に振ることと引き換えに。

そうしたヒキコモリに対し、ネットやゲームを取り上げてしまえ、という人もいますが、そうしたことをしても、ただ、寝たきりになってしまうか、逆上して家族を殺傷してしまう事件もあったりします。

あるいは、怠惰なヒキコモリを鍛えなおすのだ、という発想なのか、拉致、監禁、暴行で入所者を死に至らしめたヒキコモリ支援者もいました。

似た例としては「お前らが可愛いけん殴るんや」というハラスメントなタイトルの本を上梓(じょうし)し、私学を経営、後にピンクのスーツ姿で国会議員になるも、会計の運用の不透明さから短期間で国会を去った方もいました。

「お前らが可愛いから殴るんだ」というのは「妻がちゃんとしてないから妻を殴るんだ」というDV夫の言い分と相似していますが、こうした心性の人が不登校生やヒキコモリをさらに追い詰めるのでしょう。

未来の世界の猫型ロボットがお腹のポケットから出してくれた石から何度も頭を小突かれながら長距離を走らされる少年のエピソードを描いたマインドと怠惰な引きこもりを鍛えなおすのだ的な発想で入所者を自殺に追いやる支援者のマインドは通底しているのです。

しかし、当事者にとって苦痛を伴うばかりの支援がいつまでも通用するわけがなく。テレビでも取り上げられたことのある暴力的なヒキコモリ支援団体から脱走した人々がその団体の代表者へ訴訟を起こす動きがあり、ヒキコモリ支援への在り方に波紋を広げています。

ヒキコモリといっても、当事者達の状態は多様なので、ヒキコモリ支援の方法もまた多様であり、唯一の方法や最高の方法といったものは無いのですが、それでもスマホを規制し、外出も制限する、などの過度な管理や規制はハラスメントと指弾されても仕方ないでしょう。

当事者が長くゲーム依存だったのであれば、スマホやパソコンから遠ざけるのもありだと考えます。その代わり、漫画やライトノベルを与えるべきでしょう。生き辛さを抱える者への何かしらの逃避の道は与えておかねば。

ただ、軽症のヒキコモリでゲーム依存に該当しないのであれば、スマホやパソコンを取り上げるとか、外出の規制といったことはすべきではないかと。

当人が自宅にいるときのような安心できる環境を与えること。そのうえで、親に代わって、スタッフが当人と話を重ね、当人が抱えている不満や哀しみといったものを理解しようと努め、やがて、当人が心を開いてくれるよう仕向ける。そのうえで、当人の社会参加の順序を話し合う、というのが望ましい支援の在り方ではないでしょうか。

昭和の子供期に まけるな がんばれ といった優しい笑顔で呪いの言葉をかけられ、平成でヒキコモリになった彼、彼女らに令和の今、かけるべき言葉は まけていい がんばらなくていい でしょう。

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倉田隆盛
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