見出し画像

生き残れますかね?

ヒキコモリからの衰弱死が報道で取り上げられるようになってきた近頃、精神科医の斎藤環(たまき)先生は先日、ヒキコモリの支援に関するツイートで概略次のように書いておられました。「親の遺産、生命保険、福祉制度を活用して生き残ることだ」と。

この指摘事態に異論はないのですが、その手続きを誰がやるのでしょう。当人ができればいいのでしょうが、会話をしても一言しか話せない、文章を書いても1行しか書けない、そうした長年のヒキコモリ生活から思考力が低下している条件不利な当事者に手続きができるのでしょうか。

ヒキコモリにも程度がありまして。

【ヒキコモリに隣接する人々】

社会的孤立:職場で誰とも話さず、1人暮らしで、他者との接点がない。

半ヒキコモリ:バイトしか勤まらず、それも対人折衝の苦手さから職場で孤立し、イジメに遭いがちなため、数週間から数カ月で職場を転々とする。

【ヒキコモリ】

外出はできるが就業には至らない:この層の人々はさらに年齢、社会不参加期間、学歴、就業歴や、人の多い空間が苦手かそうでないか、など状態は細かく分かれる。

条件付き外出:夕方、深夜、時々、自転車で、近くの自販機、コンビニ、なら外出できる

全く外出できない:怖くて自宅の玄関のドアを開けることすらできない

ヒキコモリに関する著作の多い斎藤先生ですが、斎藤先生が診てきたのは自分は心の病気だと認識があり、自分の意思で外出し、通院できる、そうした軽症の人ばかり。その範囲でしか発信していないから、重症の人には参考程度にしかならないでしょう。

重症になるとカーテンを開けず、昼夜逆転の生活を送り、部屋の照明すらつけない、明りはパソコンの明かりぐらい。およそ、太陽の光にまともに当たらない生活が長年続き、し尿もトイレを使わず、バケツやペットボトルなどで用を足し、部屋にため込んでしまう。

こうした重症の人はもはや入院するしかないのですが、ネットで散見する斎藤医師の記事を見ると入院させることにひどく消極的なご様子です。つまり、重症な人には対応したくない、ってことなんでしょう。

ヒキコモリを知るうえで誤解されがちなのは、上記のヒキコモリがいわゆる「社会的ヒキコモリ」とされる人々である、ということです。

近年の報道で見られるような、例えば、走行中の新幹線で偶然居合わせた近くの乗客に切りかかったり、交番の警官を刺して拳銃を奪って徘徊する、とか、近隣住民数名を殺傷するなど事件を起こすのは「精神障害系のヒキコモリ」であり、論じるにあたっては分けて考えるべきでしょう。

ヒキコモリは(社会的であれ、精神障害系であれ)差別の対象になりやすいのです。両者が混同され、社会的ヒキコモリまでが「突然、事件を起こす危険な人」という印象を持たれるのは望ましくありません。

そして、斎藤医師は重症な社会的ヒキコモリは勿論、精神障害系のヒキコモリにも医療者の観点から言及されることはありませんでした。少なくとも私の記憶にはありません。

精神障害の患者になると、唐突に殴ってくる事もあるそうです。当人の自室を訪問すれば、刃物を向けられることもあるとか。

斎藤医師が「当人が暴れているからって入院させる必要はないのだ」と事あるごとに言ってきたのは、つまり、精神障害系の患者からの暴力が怖いのでしょう。

何も斎藤医師に限ったことではないのですが、(精神障害系か社会的かは関係なく)精神科医は誰も患者の自宅には行きたがりません。本来、主管とされる保健所の職員ですら「家族でやってください」「何かあったら警察に」が常套句。

それがため、精神障害者の移送業務はこれまで警備会社や民間の救急車、介護タクシーが当人を精神科へ連れていくことが常態化していました。そして、この部分は長く、精神医療の暗部であり、医療者達は沈黙していたのです。

警備会社を前進とし、精神障害者の移送を手掛けてこられた押川剛氏がその体験談を著作や漫画の原案という形で発信するまでは「その分野」について、私も含め、一般に知られることが薄かったでしょう。

2017年に文庫「子どもの死を祈る親たち」が刊行、ほぼ同時期に漫画「『子供を殺して下さい』という親たち」の連載が始まるや、斎藤医師がご機嫌斜めに急降下したのは、沈黙してきた部分を明かしてくれちゃったことへの反発だったのでしょう。

冒頭の話を繰り返しますと、「親の遺産、生命保険、福祉制度を活用して...」ということですが、重症の人にはまず手続きはできそうにないでしょうから、親か親に代わる介助者がいるでしょう。

親に代わる介助者といえば兄弟でしょうが、兄弟がいない、いても従前から不和で頼れない、そもそも兄弟も自分のことで手一杯な場合もあるでしょう。

共助がダメなら公助は、となるのですが、不幸にも福祉業界は深刻な人手不足です。その不足の度合いはコロナ禍でさらに悪化していることが直近の報道でも伝えられている通りです。

斎藤医師のもとにある時期、(軽症の)ヒキコモリとして通院していた方が後に地元の市議会議員選挙に出馬(そして落選)し、その方が運営に関わるサイトに斎藤医師のインタビュー記事が掲載されるのですが、爽やかな笑顔の斎藤医師の画像が掲載されているのを見て、何やらむかついたものです。(いやいやいや、爽やかに笑ってる場合じゃないですよ!?)と。

不登校から大学へ進学した人物の事例を喧伝し、自らの笑顔の写真をサイトに掲載するフリースクールの主宰者をいわば「キラキラ支援者」とすれば、斎藤医師はさしずめ「キラキラ医療者」なのでしょう。

「生き残ろう(キリッ)」と言われても、自助はもとより、共助も公助も頼れない人々がこれらいよいよ続発することでしょう。

いいなと思ったら応援しよう!

倉田隆盛
皆さまのサポート宜しくお願いします。