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都知事選を振り返る

今年の都知事選、主要候補の1人、田母神氏は10年前、2014年の都知事選では原発推進を掲げ、SNS上では一部の層から熱い支持を受けていました。あの時は、脱原発を掲げる元首相の細川氏が立候補し、それを応援する、こちらも元首相の小泉純一郎氏が並び立ちます。

SNSでは、当初、「原発は都知事選のイシューではない」「東京都は原発立地県ではないのに」との意見が散見されましたが、日を追うに連れ、論調が変化し、原発に肯定的な田母神氏を推す声が強まりました。ある大手紙の社説では「原発は悪なのか」と感情的な意見も。

東日本大震災の記憶も浅い、2014年、都知事選の最大の争点は原発の是非になっていきます。選挙はというと、ギリギリになって、出馬を表明した、舛添氏が当選しています。(舛添氏は原発については段階的に依存度を減らす、という立場でしたが)

選挙期間が終わると、田母神氏を支持していたあるインフルエンサーは、「今はネットに親しむ層が若年だが、将来、社会の中堅になっていく、その時こそ、期待しよう(ネットの世論が実態に反映するようになる)」と書き込んでいたものです。

あれから、10年。今年の都知事選はどうだったか、といえば、田母神氏は主要候補の一角ながら、今回はほとんど話題にならず、また、候補者達が政策を語るにしても、田母神氏を含め、原発の話は全く出てきませんでした。事故があった原発周辺は未だに、帰還困難区域があり、また、仮設住宅に暮らす人々が現在もいるわけですが。

さらにいえば、田母神氏の得票数は10年前が61万票余りだったのに、今回はその半数以下の26万7千票あまりでした。前回、田母神氏に投票した34万人余りの人々は今回は誰に投票したのでしょう。

10年前の都知事選で見せた、原発をめぐるSNS上の言論も、エネルギー政策を巡って、建設的な議論をしよう、というものではなく、一時の感情の発露に過ぎなかったのでしょうか。

今回の都知事選で起きた現象として記憶に残るのは7月7日の午後8時、当確が出た直後から得票数で3位だった蓮舫氏への誹謗がSNS上で一斉に始まったことでしょう。メディアの論調も何やら、蓮舫氏にばかり手厳しいという印象でした。

10年前の都知事選では2位の98万2千票だった宇都宮氏が今回は蓮舫氏に応援にまわり、その蓮舫氏は3位の128万3千票だったことを思えば、蓮舫氏は十分、健闘したと評価すべき数字だと思うのですが。

その数字の背景には選挙期間中、蓮舫氏の支持者たちが見せた、1人街宣の効果もあったかもしれません。都心の繁華な場所の各地に投票を促すカードを持って路上に立つ人々が現れたのです。

その様子がSNS、X上に画像で、地図で、表示され、有権者の政治参加の意識が高まっていることが可視化されたものです。支持者の1人街宣、この現象は他の候補者には見られなかったでしょう。4年後の選挙もこうした手法は踏襲されるでしょうし、あるいは何かしら新しい手法も登場するかもしれません。

有権者の政治参加を思うのなら、やはり、1年とかのより長い期間を通じて、都知事選候補者どうしの演説会はやるべきでしょう。そのほうが不毛な感情論に陥らず、人々の思索や理解も深まると考えます。

田中真紀子さんが昨年、永田町の議員会館の会見の場で訴えたように候補者討論会をやるべきでしょう。父親の角栄氏もまた、それで鍛えられたと、真紀子さんは語っていたものです。

その時は小池知事にも願わくば、討論会に出て欲しいものです。あるいは田中真紀子さんが提案したように候補者達、現職の小池知事も含め、まずはペーパーテストを受けてもらってからのほうがいいかもしれません。

小池知事といえば、学歴詐称のことが今回は取りざたされましたが、経歴を詐称するにしても、ある芸能人は経歴を虚飾しながらも、それに見合うよう努力をしていたわけですから。勿論、公人と芸能人とでは話が違うといえば、それまでですが。

あらためて、都知事選のことを振り返ると、ネットSNS上での人々のリアルタイムの反応を追うことで、みんなが共通の出来事を体験している、いわば、祭りに参加している気分だった、ということ、そして、この傾向は今後も深化していくことでしょう。

テレビは依然として、視聴者数では圧倒的な影響力があります。家電の一部として、だいたいの家庭にあり、多くの人がテレビをつけっぱなしにする。とりわけ、夜8時代は推定で1つの番組を2000万人とも3000万人ともされる人が見ているのです。

ただ、今回の都知事選に関する報道をテレビは投票日、直前までほとんどしなかったのは何かに配慮していたのか。

現職の小池都知事は選挙期間の初日は離島で、次は山間部で、次は電車の車両のなかでプロレス団体との交流の様子を、次に河川上にボートで現れたりと、現職の権限を利用し、取材陣を思いのままに動員していました。

小池都知事の活動の特徴は多くの市民に触れる場所に出てこない、ことです。それがようやく、最終日に都心の繁華な場所で多くの聴衆の目があるところでの街宣。すると、聴衆の間から「帰れ 帰れ」のコールが。

そんな現職が投開票日の午後8時にあっさり、当確を出してしまうあたり、我が国の民主主義とは、選挙とは、と考え込んでしまいます。

3期目の小池都政が始まりましたが、都政にどのような成果があるのか、都民に限らず、全国の有権者は注視する必要があるでしょう。それは東京都が全国から多くの人々を集まる自治体だからでもあります。

歴代の都知事が、地方出身者ばかりであることからも見て取れますが、地方の繁栄と東京都の繁栄は連動しています。地方の人材、才能と労働力が東京に集まる構図があるわけですから。

明治初年に皇居が京都から、物流の拠点は大阪から、外交の窓口は長崎から、東京に移転し、中央集権、一極集中を進めましたが、これからは首都機能を各地に分散、移転を考える時が来ているでしょう。

次の都知事選も引き続き、小池、石丸、蓮舫の3者が都知事の椅子を狙うのか。あるいは他に有力な人物が出るのか。東京が、ひいては、我が国が、どうあるべきか、政治や選挙の在り方も踏まえつつ、建設的な意見が交わされ、民主主義が進化していくことを願うものです。


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