暮らすroom's プロジェクトキックオフイベント IN 飯田市〜女性活躍のこれからを考える〜 【イベントレポート】
女性が自立し、主体的に生きることのできる社会の実現を目指してスタートした「暮らすroom'sプロジェクト」。
自立=自分一人でなんでもしなければならない、というイメージもありますが、私たちの目指す自立とは、それぞれに頼れる相手を増やして悩みや様々な事柄を相談し、解決につながる環境を作ることにあります。
女性のウェルビーイング(それぞれが満たされた状態)の実現が社会の中で当たり前になるよう、暮らしを考える場や学びの機会を提供して緩やかなコミュニティーを構築し、交流の中で未来へのヴィジョンを紡ぎ合います。
今回は、2023年1月20日(金)に飯田市地域交流センターりんご庁舎3F(飯田市本町)で開催されたキックオフイベントの様子をお届けします。
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この「暮らすroom'sプロジェクト キックオフイベント」は、県全域を巡るキャラバンの形で開催。
2022年9月に伊那市、10月に長野市、11月に松本市で行われ、今回の飯田市は4回目の開催です。冒頭、プロジェクトの管理団体のひとつ・一般社団法人South-Heart(飯田市)代表理事の森本ひとみが開会のごあいさつと共に、プロジェクトの概要説明を行いました。
「長野県から全国へ。暮らすroom'sプロジェクトがソーシャルイノベーションを起こす事業になることを期待」
公益財団法人 長野県みらい基金チームプログラムオフィサー
中島恵理さん
次にお話をいただいたのは、元長野県副知事でもある中島恵理さんです。「暮らすroom'sプロジェクト」は、中島さんがチームプログラムオフィサーを務める長野県みらい基金の「2021年度 休眠預金等活用事業」に採択された7つの事業のひとつです。
休眠預金等活用事業とは長期にわたり取引のない預金等を社会課題の解決や民間公益活動の促進のために活用する制度のこと。
中でも”社会的に新しい価値を生み出すこと”を期待して選ばれる「イノベーション事業」の枠で2021年度に採択されたのは全国で唯一、長野県だけだったといいます。
中島:長野県みらい基金では、次世代の「働き」「学び」「暮らし」の実現のために革新的な社会実験にチャレンジする団体の支援を行っており、これらの成功例を長野県から全国のモデルとして発信していきたいと考えています。
暮らすroom'sは全県を網羅していること、なおかつ長野県は「女性の管理職者数」という面では残念ながら全国的にも順位が低い中で、女性のそれぞれの生き方を応援するこのプロジェクトに期待の念も込めて採択が行われました。
地域の課題解決に向けての新たなチャレンジ、ソーシャルイノベーションを起こす事業になるよう、長野県みらい基金も皆さんと一緒に応援していきたいと考えています。
と大きな期待を込めて語っていただきました。
講演会「女性活躍のこれからを考える」
講師:株式会社ミューズ 代表取締役 北原朋美さん
続く講演会で講師としてお招きしたのは、飯田市で活躍中の北原朋美さんです。
北原さんは1981年に松川町で生まれ、飯田風越高等学校を卒業後、TBCウェストオブイングランドカレッジへ進学。エステティック国際ライセンスを取得し、株式会社東京ビューティーセンターに就職しました。
その後、新潟、仙台、札幌など各地で経験を積み、2010年に飯田市座光寺で「エステティックサロンミュー」を起業。仕事に励む中で、3人の子育てと仕事の両立に悩んだ末、選択理論心理学を学びました。
そして、この選択理論心理学を多くの方々に周知することで身近な人間関係の改善や、良い家庭、良い職場が増えることを願い、2021年に「株式会社ミューズ」を立ち上げ、代表取締役に就任されました。
現在、「幸せで感謝に溢れた人生を送っている」と語る北原さん。
「女性活躍のこれからを考える」という今回のテーマにふさわしい、キラキラ輝く女性の一人でもありますが、実は「以前は自分のことが大嫌いでした。非常にネガティブで自信がなく、子育て、家事、仕事に追われ、孤独でした」と当時を振り返ります。
そんな北原さんが変化するきっかけになったのが、今回お話しいただいた「選択理論心理学」です。
これは米国の精神科医ウィリアム・グラッサー博士により提唱された”人間の行動のメカニズム”を説明する理論で、脳の働きを基盤に、人間の行動がどのようになされるのかを理論化・体系化したものです。
選択理論は「すべての行動は自らの選択である」と考える心理学です。
自らの行動を選択できるのは自分だけであり、自らの行動は他人に選択されず、また、他人に行動を選択させることもできないと考えます。
「自分は正しい、人を変えられる、コントロールできる」(外的コントロール)という考え方では「批判する」「責める」「文句を言う」「ガミガミ言う」「脅す」「罰する」「褒美でつる」などの行動を起こしがちであり、人間関係が破壊する要因となります。一方、相反するのが「人は変えられない。違いは違い」ととらえる考え方。
「傾聴する」「支援する」「励ます」「尊敬する」「信頼する」「受容する」「意見の違いについて交渉する」という7つの習慣を取り入れることで信頼関係が自然と構築されていくのです。
こうした選択理論の学びを、お子さんやご主人への接し方など実生活に応用したことで「自分自身や周囲にも良い変化が生まれました」と明るく話す北原さん。お子さんやご主人の反応など具体的なエピソードを交えながら、わかりやすく説明してくださいました。
また、私たち人間は誰もが、遺伝子に組み込まれた5つの基本的欲求〜「生存」「愛・所属」「力」「自由」「楽しみ」〜を満たすために行動しているという選択理論心理学の考え方に則り、チェック診断のワークも実施。参加者が用紙に印をつけながら自身の「基本的欲求プロフィール」について考える場面もありました。
現在は自らが「したいことをする」選択ができているという北原さんですが、以前は「したいことをしていい」とは考えられない”自己犠牲型”のタイプだったといいます。そんな時、出合ったのが青木仁志さん(アチーブメント株式会社代表)の著書の中の「人はいつからでも、どこからでもよくなれる」という言葉。この言葉に勇気づけられ、加えて選択理論心理学を学んだことで価値観が大きく変化したといいます。
北原:この考え方を皆さんに押し付けるつもりはありません。ただ、選択理論心理学を知っているだけで人生がとても楽になります。
この学びを通じて、私は外的コントロールのないリラックスした環境でこそ、女性が主体性を持って最高なパフォーマンスを発揮できると確信しております。ウェルビーイングの実現に向けて、この選択理論心理学が女性の輝く社会をよりよい方向に導いてくれると期待しています。
という前向きな言葉とともに、大きな拍手で講演は締めくくられました。
パネルディスカッション&フリートーク
【パネリスト】※50音順
北原朋美さん(株式会社ミューズ代表取締役)
佐藤 健 さん(飯田市長)
中島恵理さん(公益財団法人 長野県みらい基金チームプログラムオフィサー)
【ファシリテーター】
森本 ひとみ(一般社団法人South-Heart代表理事)
第2部は「女性活躍のこれからを考える」をテーマにしたパネルディスカッション&フリートークです。
会場の一角に「暮らすroom'sプロジェクトに期待すること」「女性活躍の課題」と書かれた模造紙が掲げられ、参加者は休憩時間を利用してふせんに自由な言葉を書いて貼付。
これをもとに会場全体で語り合うフラットなスタイルを取りました。
登壇者の一人である飯田市の佐藤市長は、自己紹介の中で自身の「育児休暇」の体験に言及。以前は総務省の職員として霞ヶ関と地方を行ったりきたりする生活をしていたという佐藤市長ですが、2010年、大分県の県総務部長時代に、部長職以上の職員として初めて10日間の育児関係休暇を取得しました。その体験記は現在も大分県のホームページから読むことができます。
→「育児休暇体験記 幸せな10日間」
「私が育児休暇を取ったのはおよそ12年前のことですが、当時は10日間の育児休暇を取っただけで地方紙のニュースになるほど、男性の育児休暇は特別なことでした」と振り返る佐藤市長。当時に比べれば、現在は少し意識が変わりつつあるものの、飯田市役所でも育児休暇取得率は低く、一桁台だといいます。
「そうした社会的背景の中でまだできることは多い。ジェンダーギャップを解消できる社会が実現するよう行政としてしっかり進めていきたいです」と語り、合わせて新たに策定された「第7次飯田市男女共同参画計画」について説明も行われました。
その後は、参加者がふせんに書いた言葉をもとに、登壇者と会場全員でトークを展開。一部を抜粋してお伝えします。
「周りの目を気にしてやりたいことを制限してしまう」
「私自身は、家族の理解もあってやりたいことを制限していないのですが、周りの女性を見ているとそういう方が多いかなと感じます。
一時期、自分の親からは『子どもがいるんだから母親が家にいるのは当たり前だ』と言われたこともありました」と話してくれたのは、この言葉を書いてくださった女性。
「これって女性が言われることの多い言葉ですよね。逆に、男性の中でこういうことを言われたことがある方はいらっしゃいますか?」という森本からの問いかけに、佐藤市長は「大分県で産休をとったとき、男性の育児休業を良しとしない考えの方も結構いました。
『あなたが休まなくても子どもは見れるでしょう』『あなたが休むと、あなたの面倒を見なければいけない(=子どもが一人増えるようなものだ)から大変だ』とか、上の世代の方からいろいろなことを言われた、という男性の声を聞いたこともあります。当時、そういう意味での圧力は感じましたね」と回答。
一方、富士見町で有機農業を営むご主人と結婚し、自身は環境省の職員や長野県副知事として東京、長野を行き来する生活を送っていた中島さんは「子育て、家事は主に主人が担当。最初は周りから『それでいいのか』と言われたこともあったようですが、幼稚園のお手伝いなどをするうちに『いろいろ楽しいね』と言うようになりました」と振り返ります。
女性が多い環境の中に男性が一人いることで、作業の助けにもなり、女性だけでは感情的になってしまいがちな話し合いがスムーズに進む場面もあったということで「男性も育児というステージで十分に活躍できますし、お互いが逆の立場になることで社会が良い方向に進むこともあります。育児にチャレンジする男性が増えて、こうした流れが普通になっていけばいいですね」と語りました。
「活躍できる環境づくり 子育て、家事、介護の支援。外で働くことばかりではなく家の中でもできることの模索 支援、手助け」
「私の話ではないのですが、数年前に結婚して都会で子どもを産んで育てている友達がいます。旦那さんは普段仕事なので一人きりで育児をしているのですが『生まれたての意思の疎通もできない子どもと二人だと気が狂いそうになる』と話していました。
彼女は自分自身を『母親失格かもしれない』と責めていたけれど、周りの助けがあれば心を病むことなく育児ができるのにと思いました」と話したのはこの言葉を綴った女性。
コロナ禍も重なり、友人が実家へ里帰りできなかった環境もひとつの要因と考えられますが、子育てがひと段落ついたとしても今度は親の介護が生じるなど女性のライフステージは変化します。そうした中で「子育て、介護など、それぞれのシーンで支援があったら気楽に生きられるのにと思い、この言葉を書かせていただきました」と話します。
「飯田市ではどのような対策をされていますか?」という森本からの問いかけに対し、佐藤市長は「精神面と物理面の両方から共感できる状況を作っていかなければいけないと改めて感じました」とコメント。
一緒に子育てをしていれば、女性が子どもと向き合っていくことの大変さはわかりますが、上の世代の方々はそれを経験していないため、理解するのは容易ではありません。「現代では男女問わず家庭科を習うなど環境の変化もあり、未来は変わっていくという期待はありますが、それを待つのではなく、上の世代や、今まさに子育てをしている世代の意識を皆で変えていかなくてはいけない」と話します。
一方、物理的な面では、子育てや介護中の方への家事援助など、行政としても実施しています。「ただ、制度を用意していても周知ができていなければ活用に至らない。国や県、市町村単位でも支援はあるのでしっかりと伝え、利用してもらえるところまで力を注がなくてはいけない」と語りました。
また、近年クローズアップされているのが、コロナ禍における女性の貧困や支援の問題です。
中島さんは「先ほどのお友達のお話も、子育て支援センターなど行政の機関がコロナ禍で閉鎖になってしまったことが、一人で悩むことにつながった原因かもしれないですね」と話し、富士見町で現在、ご自身が取り組んでいる「子どもの居場所」や「子ども食堂」についての事例を紹介。
行政ができない部分を民間のNPOやコミュニティーが担うことも重要だと考えており「子育てや貧困に悩む女性が隠れている場合も多い。隠れているところを支援するのは難しいけれどそこをなんとかサポートしていかなくてはいけない」と課題を提起しました。
暮らすroom'sプロジェクトでは、今回のように多くの方々が集まるイベントだけではなく、女性が普段足を運んでいるカフェや美容院、エステなどの場所で、自然とつながりを作り、サポートへの橋渡しをすることも目的としています。「一人ぼっちで困っている女性の皆さんが『助けて』と声をあげたり、相談できるようなつながりができたらいいですね」と中島さんからは期待の声が寄せられました。
これ以外にも、子育てにかかるお金の話、子どもたちの部活動の話、出生率上昇に向けての期待、夢について語ることの大切さ、男女の相互理解など、多くの話題について語り合った今回のパネルディスカッション&フリートーク。「女性が活躍できる社会」についてそれぞれが真剣に考え、思いを馳せる時間となりました。
ファシリテーターの森本は最後に「こうした場所を設け、様々な方のお話をお聞きすることの大切さに改めて気がつきました。思いを共有、共感し、自分の得意な分野で支援をしたり、逆に困った時には支援をしてもらったりというつながりが広がれば、飯田市が一層いい街になっていくはず。また、それが県内に波及していけばさらにいい環境が作られていくと思います。皆さんのご協力をお願いします」とコメントしました。
また、最後に閉会の言葉として、暮らすroom'sプロジェクトの構成団体のひとつ、株式会社エルズグランドケアアカデミー(長野市)代表取締役の成澤由美子さんから
「今回のプロジェクトは『女性が女性の支援をする』という形でコンソーシアムを組ませていただきましたが、様々な地域を回る中で女性の力だけでなく、皆さんの力が必要であることがわかりました。地域の皆さまのご協力を改めてよろしくお願いします」とあいさつがあり、イベントが締め括られました。
真の意味での「女性活躍」とは、女性のウェルビーイング(それぞれが満たされた状態)の実現が社会の中で当たり前となり、一人ひとりが輝きながら暮らせる環境にあります。「家事や育児は女性がするべき」という古くからの固定概念や「女性管理職を増やす=女性活躍」という一方的な価値観にとらわれず、個人の価値観や生き方が受容される生きやすい社会の実現に向けて、私たちは歩み続けていきます。
これからの暮らすroom'sプロジェクトにご期待いただくとともに、皆様のご理解、ご協力をお願いいたします。
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