【生き方、暮らし方、働き方― vol.7 増村江利子さん】 10月6日10:00-11:00 オンライン
こんにちは!今日は、10月6日に行われた、「SDGs女性情報交換会 生き方、暮らし方、働き方 vol.7 増村江利子さん」の会の様子をレポートします。
\生き方、暮らし方、働き方をシェアしませんか?/
長野県内には、自由に自分らしく生きている女性が多数いらっしゃいます。
女性の幸せって何?の答えは、数限りなくあります。
社会の「こうあるべき」という姿から自由になって、本当に自分のやりたいことをしなやかに実践している方々のお話を伺いながら、「自分にとっての幸せって何?」を探したり、再発見したり。
第7回目のゲストは、編集者の増村江利子さんです。
マルチタスクで発動する、自分らしい働き方
編集者、ミニマリストの肩書きで精力的に活躍されている増村江利子さん。柔和な雰囲気と語り口からは想像できないほど、多くの仕事と役割、活動をお持ちです。
まず、コアワークとして5つの媒体で、編集長および副編集長を兼任。
起業家としての顔も持ち、4つの事業と会社経営に携わっています。(竹100%でつくったトイレットペーパーの定期便事業を行う「おかえり株式会社」
の共同創業者として携わり、竹でつくった猫トイレの砂「竹ペレット 猫トイレ」を製造する「合同会社森に還す」の共同代表、編集業を行う「合同会社水青社」の共同代表、「NPO法人グリーンズ」の副代表を兼任している。)
さらに地域の中では、「富士見まちづくりラボ」や商工会議所にも所属し、小学校などの地域活動にも積極的に参加されています。加えて、2023年から信州大学大学院の農村計画学研究室に在籍。そして、3児の母であり、中型犬二匹、猫三匹と一緒に生活しています。
とにかくものすごいキャパシティとマルチタスク。小柄で穏やかなお人柄からは、まったく想像がつきません。
増村さん:時間の使い方は、とてもよく聞かれます(笑)。
私ね、早寝早起きなんですよ。目覚ましは、2時、3時、4時にセットして、2時に起きれたらラッキーで、どんなに遅く寝ても、4時には起きる。朝のうちに、やらなければいけない仕事をある程度済ませます。そうすれば、子どもが突然熱を出しても、何とかなります。
あとは生来、マルチタスクが得意なんだろうと思います。例えると、50台くらいのガスレンジに一辺に鍋やフライパンをかけて、あれこれ別の料理が進行している状態をハンドリングするのが好きみたいな感覚です。じっくりコトコト一つの鍋を見るよりも、多分その方が楽しいのでしょうね。まあ、焦がしてますけどね(笑)。
東日本大震災をきっかけに見つめ直した暮らし方
自分に馴染む働き方を実現し、やりたいことに対してキャリアを積み上げている増村さん。現在地に至るには、どのような心境と環境の変化を経てきたのでしょうか。
増村さんは、長野県に移住する前、東京都新宿区のマンションで暮らしていました。WEBメディアで広告制作のクリエイティブディレクターとして、第一線で活躍。一方、「当時の暮らしは、ひどいものでした(笑)」と振り返ります。
毎日深夜2時、3時まで働き、睡眠もままならない日々。28歳の時、仕事の仕方を変えようと、神奈川県川崎市宮前区に引っ越して、終電には帰れるような生活にシフトチェンジしたといいます。その後、結婚して第一子である長女が誕生し、産休を取得したのも束の間、長女が生まれて2ヶ月後、東日本大震災に見舞われます。
増村さん:その日、義理の母に長女を見てもらい、ベビーカーを買いに出かけた先で被災しました。震災がきっかけとなり、考え方にも大きな変化が生まれました。電気は原発由来であることを知りながらも、何も考えず湯水のように使っていた自分に強いショックを受けました。そこから、少しずつ生活を変えていきました。
震災前から、電子レンジをやめ、さらにコーヒーメーカー、炊飯器をやめ…、キッチン家電を手放しつつあったという増村さんですが、一層、家電を手放したいと考えたそう。ドライヤーなど小さい家電から手放し、慣れてきたところで、掃除機、冷蔵庫、洗濯機…順に大きな家電を手放すことに挑戦していきました。
増村さん:電子レンジって、確かにあると便利ですよね。便利だけど、私には理解できないって思ったんです。火を使って温めるなら、わかるんです。自分で火をつける行為があって、この火加減だったらこのぐらい温まる、火が通るという経験値がある。でも、電子レンジはマイクロ波の照射で…、と理論的にはわかるものの、自分の手や感覚でコントロールできない。そんな道具に食を委ねて本当にいいんだっけと思ったときに、もう使うのはやめようって決めたんですよね。
暮らし方の変化とともに、働き方に対しても意識が及んでいったといいます。自分が所属する企業のためではなく、ダイレクトに社会のために、自分のために仕事をしたいと思うようになった増村さんは、フリーランスに転身。建築家のもとで企業のコンサルティングを学びながら、WEBマガジン「greenz.jp」のライターとして活動することになりました。時には子連れで打ち合わせに参加。そして、グリーンズでライターをしながら触れた多様な世界が、増村さんが潜在意識で感じていたこととつながり、価値観にも変容が起きました。
増村さん:資本主義、商業主義、大量生産大量消費の次の社会のあり方を探したいと思っていました。その切り口は、パーマカルチャー(※1)にあるのか、DIYにあるのかなどと思っている時に、(すでに)あるもので暮らす世界観に出会ったんです。いわゆるカウンターカルチャー(※2)を実践している人が長野県にいると聞き、会いにいきました。
それが、古材を使ってリノベーションを行う空間制作ユニット「グランドライン」との出会い。この世界観の中に自分も身を置きたいと考え、増村さんは長野県への移住を決断しました。
9坪の家に住まい紡ぐ、ミニマリストとしての生き方
移住した当初の家は、長野県富士見町にある、50m2程度のトレーラーハウスでした。時を経て、現在は、9坪の小屋に暮らしています。6畳が2間と廊下とキッチン。ロフトスペースは、大人は立つことができない高さ。お風呂とトイレは、隣の別棟に併設されています。
増村さん:9坪って本当に狭いんですが、これで十分。大きな家に住みたいという発想がそもそもなくて、一番ミニマムな場所をキープしておいて、あとは子どもたちの成長に合わせて小屋を追加していくことを考えています。
増村さんがこの場所に移住を決めた理由は、近所に湧水地があること。水源の森は、神秘的な雰囲気が漂っています。
増村さん:湧水地の静けさと、澄んだ水にすごく惹かれました。どんな水を飲んで生きるかって、大切なことだと思っているんです。この先、別の土地や水に出会って、やっぱりこっちだって思い直すことがあるかもしれないけれど、でも今はこの水とともに生きられたらという感じがしています。
自然を感じられる、“水が合う”場所に巡り合い、暮らしをアップデートしていく中で、見えてきたことがたくさんあったという増村さん。特に、大きな2つの気づきがあったといいます。ひとつめは、コンポストを始めたことで、大切なことは「土に還るか還らないか」である、という価値基準を持つようになったこと。
そしてふたつめは、あらゆる物事のライフサイクルコストを自分ごとにすること。例えば、蛇口をひねれば誰でも水道水を飲むことができる環境にいるけれど、かつて、の苦労して水をひいて、維持をしてきた、その恩恵の上に成り立っていること。
増村さん:人は、土に還すという行為によって、自然環境を消費する存在から、毎日の暮らしの中で再生者になることができます。モノだけでなく、概念でさえも、地に足のついた思考をしたいと思っています。
そして、どこからきて、どこへ行くのか、その循環すべてを視野に入れること。例えばこの土地の水は、八ヶ岳に降り注いだ雨や雪が、大地に染み込んで、何十年もかけて伏流水となる。そうした水を飲み、暮らしの中で使って、排水溝から流れていく。現代の暮らしは生活するためのインフラが整っているから、蛇口から水を出して、シンクの下に落ちるまで、わずか数10cm分しか、責任をとっていないんです。でも、その責任を、本来は全て引き受ける必要があることを忘れてはいけないと思っていて。水だけでなく、あらゆる物事の循環の、その全体像を意識するようになりました。
都市部を離れて、自然の残る環境に身を置いたからこそ、アップデートされていった心境の変化。効率ばかり追い求めることを繰り返していくと、森や自然といった環境から、もっと離れることになってしまう。だからこそ、多少面倒でも、自分がその面倒さを引き受けることで、いろいろなものを手放していったといいます。
増村さん:冷蔵庫は9年くらい使っていなかったのですが、長女が中学生になってお弁当づくりが始まり、夫が冷蔵庫を置いちゃったんです。私への配慮なのか、生活空間ではなく、お風呂とトイレ棟に、ですけどね。私にとって違和感でしかないのですが、これ以上嫌だと言い張ったら、家族が崩壊するかもしれないと思って。いつかまた冷蔵庫を使わない暮らしに戻りたい。でも今は、受け入れることにしました(笑)。
豊かな感受性を持ち、自分の違和感には妥協しない。しなやかに生き方、暮らし方、働き方をアップデートしてきた増村さんに、最後に聞きました。
―― あなたにとって幸せって何ですか?
おいしい珈琲をいただく時間が暮らしの中にあれば、それでいいかな。多分、そんなに多くを求めていなくて、目には見えないもの、例えば地下水、地中の微生物、風や光なんかも心地よく感じられている状態でいることが幸せ。人はすぐ目の前のことに追われてしまうし、私自身も仕事や子どもたちに振り回されてしまうこともありますが、犬の散歩で森の中に行って、木々や湧水の美しさに触れるたびに、心が満たされています。
●PROFILE
国立音楽大学卒業後、Web制作、広告制作、編集を経てフリーランスエディターとして活動。greenz.jp編集長、esse-sense編集、SMOUT移住研究所編集長、ながの人事室編集長。2017年に東京から長野県諏訪郡に移住。三児の母として、犬二匹、猫三匹とともに、9坪程度の小屋でDIY的暮らしを実践中。ミニマリストとしての暮らしぶりは『アイム・ミニマリスト』(編YADOKARI)にも収められている。
写真:砺波周平
パーマカルチャー(※1)
パーマカルチャー (Permaculture) という言葉は1970年代に生まれた、パーマネント (permanent) とアグリカルチャー (agriculture) を組み合わせた造語。「永続する農業」。(Wikipediaより抜粋)
カウンターカルチャー(※2)
既存の文化や体制を否定し、それに敵対する文化。1960年代のアメリカで、最も盛り上がりをみせた。対抗文化。→サブカルチャー(コトバンクより)メインストリーム・カルチャーとは何かは曖昧なところがあるが、カウンターカルチャーを通じて既存の体制や文化の問題点や利点が浮き彫りにされること効果がある。(Wikipediaより)
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