小さな物語を積み重ねた先に - Kurasu Small Talk #7
季節が変われば、味わいも日常も変わる
久々に店舗を訪れた、とある日。シーズナルブレンド「夏暁」が「秋うらら」に変わっていました。季節の移ろいを感じる瞬間です。
ほかにも、シングルオリジンのラインナップがブラジルからケニアに変わっていたり。
「あ、もうケニアの季節か……」
ケニアの季節って何ぞや、と思われるかもしれませんが、コーヒー好きにとっては「秋だね」という共通言語として通じることもあるのです。その味わいは、明るいフルーツの酸味があるかと思いきや、焼き栗のような甘さが長く残り、一層秋らしさを感じさせるもの。コーヒーの「旬」の話だから、相当マニアックなのは承知の上ですが……。
バリスタのAさんは髪が伸びていたり、別のFさんは髭を剃ってすっきりしていたり。お店に通い続けてこそ気付く、そんな細かな変化もまた魅力。そのままコーヒーを注文して席に腰掛けていると、タイミングよく、何度か見かけたことがあるお客様と話す機会がありました。その方とはよくお店ですれ違うものの、実際に話したことはありません。ただ、持っている本が好みだったので印象には残っていました。
京都は広いようで、いろいろとギュッと詰まっている小さな街なので、どこかですれ違うことは案外少なくありません。そんな方と、こういうタイミングで話せたのは嬉しいこと。日常の中に潜んでいるこうした出会いは、ありがたいものです。
コーヒーショップという空間は不思議だと思いませんか。一人でコーヒーを一杯飲む、その時間は個人的なものですが、場所としては公的な空間でもあります。
そしてその中で、私的な時間と公的な時間が交差する瞬間があるのです。例えば、決して盗み聞きしようと思っていなくても、他の人々の会話がアンビエントサウンドのように耳に入ってきたり、時にはそういった状況が発展して、自然と初対面の人々との会話に入っていくこともあります。
こうした場所は「サードプレイス」とも呼ばれるそうです。サードプレイスとは、自宅や職場、学校などとは別に存在する、居心地の良い「第三の場所」という意味。情報過多で、なぜか少し慌ただしい現代社会において、ゆったりリラックスできる場所を持つことは、個人にとっても集団にとっても、いろいろなメリットがあるのだとか。
簡単に言ってしまえば、風通しの良い時間と場所で過ごすことは大事だという話。少しでもポジティブな気分になれば、他の物事が捗ることも明白でしょう。
コーヒーとともに流れ続ける毎日のひとコマ
Kurasu Kyoto Standがオープンしたのが2016年。Kurasu Ebisugawaは2020年から。まだ短い歴史ですが、小さな物語の「起承転結」ができあがるには十分な時間が経っています。
Kyoto Standでコーヒーを飲んだ高校生は、今や社会人になっているでしょうし、親御さんに抱かれていた子供はもう小学生になっているでしょう。コーヒーショップで出会った二人が、三人の家族になることだってあるかもしれません。life goes on bra!(人生は続いていく)
コーヒーショップはまさに、人々の一瞬が交差する場所。例えるならターミナルのような場所でしょうか。実際、駅の近くにコーヒーショップが多いのも、何かしらの関連性があるのかもしれません。
「一期一会」というほど大げさではないにせよ、コーヒーショップでは「Hello(こんにちは)」と「See you(またね)」が連続的に繰り広げられます。Beatlesの《Hello, Goodbye》」になぞらえれば、「You say “Goodbye”, and I say, “Hello”」、いや、「I say “Goodbye”, and You say, “Hello”」といったところでしょうか。
Kurasuとしてグローバルに事業を展開し、様々な変化がある中で、大きな物語を紡いでいるのは、結局のところ日々の小さな喜びや、「いい話だな」と思えるような小さな物語たちではないかと思います。
スティーブ・ジョブズのスピーチ「Connecting the dots」でも有名ですが、「点と点がつながり、線になる」とはよく言ったもの。日々の「小確幸(しょうかっこう)」、小さくても確かな幸せが、より良い未来への一歩となるのでしょう。たいしたオチのない日々もまた愛おしいし、その積み重ねがドラマにもなるのです。