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64についてのお話

こんにちは。身近な数字のアドバイザーのナカナカです。

今回の身近な数字は「64」、日本遺産構成文化財No.64「火焔型土器(かえんがたどき)」を含む縄文時代に関するお話です。

最初に、「日本遺産(Japan Heritage)」とは、地域の歴史的魅力や特色を通じて我が国の文化・伝統を語るストーリーを遺産として認定し、ストーリーを語る上で不可欠な魅力ある有形・無形の様々な文化財群を総合的に活用する、という文化庁の取組です。地域に点在する遺産を「面」として活用し発信することで地域活性化を図ることを目的としている日本遺産は、文化財保護のための規制を目的とする世界遺産登録や文化財指定とは異なるものです。

日本遺産構成文化財の64番目に認定されたのが「世界有数の雪国に生まれた火焔型土器」です。火焔型土器は、燃え上がる焔を思わせるような造形美を誇る土器で、縄文時代中期の5,000年前に誕生しました。力強く燃える焔、また見る者によっては水の流れや波などをイメージさせる意匠、造形は圧倒的です。この造形の中で突起を持つということが縄文土器の特徴であり、中でも特に大仰な4つの突起を持つ火焔型土器を見て、「なんだ、コレは!」と叫んだ岡本太郎の逸話は有名です。その優れた芸術性は世界に認められることになり、現在は大英博物館にも常設展示されています。

1936年に長岡市の馬高遺跡から火焔土器が発見されたことが物語のはじまりです。世界有数の雪国である信濃川流域には縄文時代の遺跡が多数あり、新潟市・三条市・長岡市・十日町市・津南町および魚沼市からなる「信濃川火焔街道」には、縄文時代の出土品を展示する博物館が多数存在します。中でも新潟県の十日町市博物館には、縄文土器としては国内第1号の国宝に指定された火焔型土器が展示されているので、一度はこの目でその芸術性に触れてみたいものだと思っていた矢先の事、私は意外な場所で縄文と出会うことになりました。

外出先から帰宅途中の電車内でのこと、最寄り駅に近い駅で、不思議な違和感を覚えたのです。停車中にぼんやり眺めていたホーム際の建物の様子がいつもと違います。よく見ると、建物の壁に「縄文の村」という大きな文字があるではありませんか。これまでも目にしていたはずなのに、縄文に関心を持つまでは全くスルーしていたようです。調べてみると、建物は東京都埋蔵文化財センターで、遺跡庭園「縄文の村」が隣接していることが分かりました。早速出かけてみた結果、なんと私は縄文人の足跡も残る「多摩ニュータウン遺跡」の真上で暮らしていることを知ったのです。

縄文時代は、およそ16,000年前から2,800年前まで1万年以上続いたといわれています。遺跡庭園「縄文の村」は多摩ニュータウンNo.57遺跡(縄文時代集落)に盛土をして当時の多摩丘陵の景観を復元したもので、前期(6,500年前)、中期(5,000年前)の竪穴式住居と、敷石住居(4,500年前)を見ることができます。気候が温暖なこの時期には、温帯落葉広葉樹を中心に広葉樹や針葉樹を交えた豊かな森が人々の生活を支えていたそうで、縄文住居の周囲に植えられたこれらの植物も鑑賞することができました。

現在の多摩ニュータウンからは、氷河期の終わり約32,000年前の石器が出土し、針葉樹林に住むナウマンゾウなどの大型の獣を狩猟しながら移動生活をしていた人間の営みを垣間見ることができます。20,000年前頃から地球の気候が温暖になると、大型動物に代わって増加したイノシシやシカなどの中小の動物が狩猟の対象になり、弓矢やおとし穴などの新しい狩りの方法が発達し、人々は竪穴住居を建てて定住するようになりました。縄文時代の幕開けです。

縄文時代は、土器の特徴などから草創期、早期、前期、中期、後期、晩期の6つの時代に分けられます。東京都埋蔵文化財センターには、多摩ニュータウン造成工事中に発掘された縄文土器が年代別に収納、展示されています。縄文中期には4つの突起を持つ土器や、凝った装飾の土器も出現していますが、火焔型土器ほどの芸術性を持った土器は出現していません。なぜでしょう。

火焔型土器が多く出現した信濃川流域は世界有数の雪国ですが、それは縄文時代早期の8,000年前に遡ります。氷河期には閉じていた対馬海峡が温暖化による海面上昇によって大きく開き、それまで湖だった日本海に対馬暖流(黒潮)が流れ込んで大量の水蒸気を発生させるようになったのです。雪に閉じ込められた縄文の人々は、竪穴住居の中で炎を見つめながら長い冬を過ごしたことでしょう。その暮らしが他に類を見ない独創的な土器を生みだしたのかもしれません。

「世界有数の雪国に生まれた火焔型土器」というストーリーは、地球規模の気候変動と文化を考える上で大変興味深い物語ではないでしょうか。

参考:
日本遺産ポータルサイト https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/
https://www.kaen-heritage.com/doki/

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