前田寛治の洋画に見る、陶器作品との共通性〜山村富貴子さん、および、ハイジさんによる陶器作品との比較〜
洋画家・前田寛治(1896~1930)は、鳥取県出身で、東京美術学校卒業後に渡仏し、帰国後に数々の賞を受賞するも、惜しいことに、わずか33歳で夭折しました。
広島県廿日市市のウッドワン美術館には、3作品が所蔵されており、そのうち、画家の一生の終わりの時期に描かれた「少年の像」と「花」の2作品は、画家の真骨頂である、硬さ、堅牢さが感じられる作品です。それは、焼き締められた陶器作品の質感に通じるものです。そこで、現代作家の陶器作品のなかに、その共通性を探ってみました。
まず、「少年の像」です。
前田寛治・作「少年の像」1928年 ウッドワン美術館蔵 1)
筆者には、そこに、備前焼作家・山村富貴子さん作「シロクマ」に通じるものが見えました。
山村富貴子・作「シロクマ」
備前焼は、陶土が硬く、加工に力を要するので、造形が直線的になり、作品に硬さや堅牢さが顕れます。
描かれ、造形された、表情は、少年もシロクマも、まだ、しっかりと世界を見据えられるようになる前の、人格の準備段階で、内面をぎゅっと固めつつあるのが感じられます。
少年の右手の甲にスポットが当たっていますが、シロクマの右手の甲にも、橙色の自然釉が発色しています。それは偶然の一致、すなわち、シンクロニシティです。
続いて「花」です。
前田寛治・作「花」1930 年 ウッドワン美術館蔵 2)
花瓶には油彩で、ぶ厚い陶器の重さや堅牢さが表現されていて、生けられた花にも同様にして陶器のような厚みと堅牢さが感じられます。
画像は、アートギャラリー・ビョルンの店主で、総合芸術家のハイジさんによる、オーブンの陶土作品「ラビット」です。
ハイジ・作「ラビット」
ラビットの下半身を花瓶に見立て、前脚・顔・耳を生けられた花に見立てると、小さいながらも、前田寛治の油彩画と共通する、厚みのある堅牢な、一つの世界が浮かび上がってきます。
アート作品には、様式や時代を越えて、権威のあるなしや有名・無名の評価を越えて、表現の真髄が脈々とつながっています。それを見出すと、とても、こころが満たされます。
引用文献
1)ウッドワン美術館・編:ウッドワン美術館 名品選集. ウッドワン美術館. 2017. P146
2)同 P147
追伸
倉敷の大原美術館には、前田寛治・作「二人の労働者」(1923年)が所蔵されています。
表題画像の右から二人目が、山村富貴子さんです。
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