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アメデオ・モディリアーニによる肖像画の記号性〜三宅智之さんによるシロクマの彫像への投影〜
大阪中之島美術館(表題画像)は、構想から40年の年月を経て、2022年2月に悲願の開館が成就しました。それを記念して、初の特別展「モディリアー~愛と創作に捧げた35年~」(2022年4月9日~7月18日)が開催されましたので、出かけて来ました。
アメデオ・モディリアーニ(1884~1920)は、パリで活躍し、わずか35歳で夭折した画家です。貧困・病・荒廃した生活と、一方で妥協のない芸術家精神とに彩られた劇的な生涯で、他の誰にも真似のできない独自の肖像画を生み出しました。
モディリアーニの肖像画は、著しくデフォルメされていますが、人の顔だと認識されますし、一見してモディリアーニの作品だと判ります。一方で、作品が表す人間の内面は、作品によって著しく異なり、個別的です。
そこで、筆者はモディリアーニ作品の記号性に注目してみました。記号の特性は、一般性・普遍性です。例えば「木」という言葉は、膨大な種類の木や同じ種類の木でも、個々の異なった木を全て包括して「木」と呼び、一括りにします。一方で、括ったものは、僅かな差異にによって区別されます。私たちは、例えば、「雪」を、「牡丹雪」「粉雪」「吹雪」など区別します。ちなみに、北極圏に住むイヌイットは、60以上の雪を区別するそうです。
記号性の検証をするのに媒介として用いたのは、岡山市北区吉宗の三宅木工房、三宅智之さんによるシロクマの彫像です。
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三宅さんのシロクマは、写実的な現実のシロクマではなくて、人の化身として作られたキャラクターです。デフォルメされた愛嬌のある顔立ちには、個体ごとに独自の内面が感じられます。
外見が著しく異なる、人物の肖像画とシロクマのキャラクターとの間に共通性が見出されると、そこに強力な記号性が存在することになります。
選択したモディリアーニ作品は、筆者が今回の特別展で出会った作品です。
それでは、検証を始めてみましょう。まずは、「女性の肖像」です。
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眼を灰色に塗られた女性は、内面に、正中を貫く芯の強さが感じられます。
対する三宅智之さんによるシロクマの彫像も、すくっとまっすぐ屹立するキャラクターの芯の強さを感じます。
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この空気感の一致はいかがでしょうか?
続いて、「若い農夫」です。
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描かれているのは、少年と言うよりは、大人びた雰囲気をもつ若い男性です。眼は水色に塗られ、顔を少し傾けて繊細な表情を浮かべています。口元には軽い笑みが感じられます。
対する三宅智之さんによるシロクマの彫像は、これから、しなやかに道を切り拓こうとする自信に溢れた青年の趣があり、口元には軽い笑みが感じられます。
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この空気感の一致はいかがでしょうか?
最後は、「小さな農夫」です。
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モデルの少年は、体が急激に成長したために、はち切れそうになった服を着ています。小さな眼が水色に塗られ、まだ初々しく浅い内面が感じられます。おでこや眼の周りの明るさと桃のような美しい頬の血色が、若さの象徴として印象的です。
三宅智之さんのシロクマの彫像は、体がずんぐりとしていて、かわいらしさがあります。内面の、ころころした、はつらつさが、頬に発露されている感じです。
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この空気感の一致はいかがでしょうか?
100年余り前のパリと、現在の日本との、時空を越えた記号性の一致にびっくりしました。
三宅智之さんの彫刻刀による刃痕とモディリアーニの筆触も、とてもよく似ている感じで、はたまた、びっくりです。
文献
1)大阪中之島美術館, 読売新聞大阪本社, 大阪読売サービス・編集、深谷克典, ケネス・ウェイン, 小川知子・執筆(有限会社フォンティーヌ, 飛鳥井雅友・翻訳):大阪中之島美術館 開館記念特別展 モディリアーニ〜愛と創作に捧げた35年〜. 読売新聞大阪本社, 2022. P107
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2)同 P108
3)同P111