お前が死んで喜ぶものにお前の文体の舵を任せるなの呼吸 参の型

うっしゃおら、前回の続きである。

前回は、えーと、なんだっけ。忘れた。読み直そう。

そうだ、句読点だ。句読点は大事だから、あえて無くして書いてみようという課題だっだ。実はこれに近いことを、課題の前にやったことがある。去年百合文芸に投稿した(そして何の賞にも引っかからなかった)うらみっこつらみっこという話である。少し引用する。

 食堂までおやつを取りに行ったら今日も障害者を安い給料で雇ってる施設で焼いたクッキーの詰め合わせでまぁ美味しいんだけど味がスタンダード過ぎるからすぐ飽きちゃうんだよねとリピコに言うけどリピコはまだ飽きてないから美味しい美味しいと感動しながら食べててかわいい。食べ方がリスみたい。

こんな感じだ。引用した部分に読点はないし、小説全体を通しても台詞部分以外では(確か)読点を使っていない。なんでこんな書き方をしたかと言うと、最初の一文で長めの文章を書いたらそれが気持ちよかったからで、気持ちいいということは最後までこの文章で書けるだろうと踏んで実際書いてみたらちゃんと最後まで書けたからそうなったみたいな、行き当たりばったりな感じである。あとメイン二人の捨鉢な境遇にもマッチした文体のように思えたし、今もそう思っている。読者がどう感じ取ったかは聞いたことがないからわからない。境遇と文体あってましたかね。

というわけで、こういう課題に挑戦するのは初めてではないから俺にとってはお茶の子さいさい、楽勝なのである。みたいな舐めた態度で昨日書いたのが以下。

回答

 一人のサッカー少年の走っている音が聞こえなくなりぜぇはぁという呼吸音が目立ったかと思えばバタリと倒れた慌てて駆け寄ると肌からの放射熱がすごくて熱中症だ救急車を呼んでと大声で指示するとようやく審判がピーッと笛を吹いて試合が中断する判断が遅いと思いつつ水をバシャバシャとかけ誰かのママさんが持ってきた経口補水液を口に含ませるとまたバタリと別のサッカー少年がくずおれて救急車追加でもう一台と大声で追加発注をかける水がバシャバシャバシャバシャ経口補水液もごくごくごくごく全部二乗でこれまだ増えるなと思って体調怪しい子は全員屋内避難と叫ぶも屋内に移動するまでの百メートルで今度は五人がバタリバタリバタリバタリバタリと倒れて救急車あるだけ呼んでと叫ぶも熱中症多発はこの試合だけに起こっている現象ではないだろうしどうせ足りない車出せる人は用意してくださいと指示するが受け入れてくれる病院をどう探せば良いんだろう救急隊員に聞けば良いのかと考えていると最初の一台がサイレンを鳴らしてやってきて良かった一台はなんとか確保できたんだと思っていたらサイレンはドップラー効果を体現しながら通り過ぎていったそしてまたバタリバタリ

一読して目に付くのはオノマトペの多さで、句読点が使えなくて表現できない文章の区切りを擬音で無理やり作っている。いや、どちらかといえば区切りというより、目印を作っているのかもしれない。長い一塊の文章があるとき、どこの文まで読んだか見失って視線が迷子になることがあるのだけれど、それを防ごうとぼんやり考えていたような気もする。オノマトペがカタカナなのも、視線が引っかかりやすくするためだ(ったような気もする)。そう考えると親切な文章だ。上手かどうかはさておき。
また、初日に書いた課題の文章で全盲の子を語り手にしたことを引きずって、この文章にも視覚情報を入れていないという「言われてみればそうかも」要素を含めている。ただの遊び心以上でも以下でもない。気付いた人はすごいが、気付かないのが普通であろう。というか、こんなことに気付くくらい俺の文章を真剣に読んでいる人がいたら、逆に怖いかもしれない。誰か気付いた人がいたとしても、黙っていてくれると有り難い。どうしてもというなら俺に伝えてくれても構わないが、怖がられる覚悟はしておいてくれ。

では本日の課題。お題は文の長さ。ル=グウィンせんせーは「一文をできるだけ短くしろ」という頻出小説テクニックに「そんなワケあるかい」とお怒りのご様子である。

練習問題③長短どちらも

問一:一段落(二〇〇~三〇〇文字)の語りを、十五字前後の文を並べて執筆すること。不完全な断片文は使用不可。各文には主語(主部)と述語(述部)が必須。

問二:半~一ページの語りを、七〇〇文字に達するまで一文で執筆すること。

回答一
 ガムを噛むかのように彼の顎が動く。私は彼に尋ねる。何味のガムを噛んでいるのか、と。彼は口を開けて中を見せてくれる。舌に乗っていたのは苺形のグミだ。ガムではなくグミだったことはスルー。赤いそれはまだ輪郭を保っている。噛んでなかったの? と尋ねる。彼は頷く。噛まずに舌で転がしていたようだ。彼はまた口を閉ざす。顎が再び動き出す。私は動く顎をじっと見つめる。彼は恥ずかしそうにしている。不意に、意地悪がしたくなった。彼の顔にぐっと近寄る。私は、噛んで、とお願いする。噛んで、その後口を開けて。彼は首をふる。そんなに恥ずかしいのだろうか。痴態なら、さっきまで見ていたのに。もっと赤裸々な部分を。

回答二
 年に一度の全社員集会の始まりの挨拶でいきなり社長が声も高らかに我が社始まって以来の存亡の危機だと告げて、普段大人しくて会社にやってきても新聞を読んでいるところしか見たことがない社長なのにいきなりそんなことを言うなんてよっぽどだろうなと思うものの、告げられた社員の大半はそんな経営のことなんか知ったこっちゃないし自分の裁量ではどうしようもないと他人事のように感じていたところに、続いて壇上に上がった専務が「とても大きいピンチだがピンチはチャンスであり、大きいピンチはすなわちビッグチャンスだ、何が何でもチャンスに変えろ」と言うので、なんともならないだろうに取り敢えず変えれるところは変えてみようという意識になったらしく、次に登場した人事部長(とても嫌な予感がする)がこちらを見て、私の所属するカレンダー部――雪のちらつく年末に営業が得意先にあいさつ回りに行く時、車の後部座席が埋まるほどたくさんのカレンダーを持って行くが、それを誰が作っているのかご存知だろうか? そう、私達カレンダー部(総勢三名)である――の有用性並びに部員全員の進退を問うてきたので、私は直属の上司にマイクの前に立って鋭い反論をよろしくと送り出したが、我らがカレンダー部部長はしどろもどろにカレンダーがないと困りますよね、何が困るって、今日が何曜日かとか頻繁に分からなくなりますし等と愚にもつかないことを言い出したので慌てて走り寄ってマイクを奪って、取り敢えず有用性だけアピールしてやろうとカレンダーこそが我が社を救う切り札になるのですとぶち上げたが、社長にどうやって救うのかと聞かれて言葉に詰まり、つい「それを証明するにはこのスピーチでは余白が足りません」と言ってしまったために、後日経営陣の前でカレンダーで会社を救うためのプレゼンをする羽目に陥ってしまった。なんてこった。

今回の舵取りは以上である。なんとか三日以上坊主が確定したので安心している。ではまた次回。