リモートワークの幻滅期を乗り越えろ
ここにきて多くの企業がリモートワーク(テレワーク/在宅勤務)に取り組み始めてますね。10年近く前からやってる身としては隔世の感があります。
取り組み始めた皆さんのために私たちも何か出来ないかと考えて、拙著「リモートチームでうまくいく」を期間限定で全文公開しました。
これまでリモートワーク反対されていたり、躊躇されていた企業が今や待ったなしの状況で、取り組まざるを得なくなっていますね。その結果、満員電車に乗らなくてもよいし、時間も有意義に使えたりして「リモートワークいいね!」という意見も多く出ています。
一方で、企業側としてはチームワークや仕事の進め方、労務やセキュリティなど、あまり準備しきれずに始めてしまったことで、実務上の課題があぶり出されてくる頃です。
同時に、リモートワークで働く側も「集中できていい!」と言ってた人が、「やっぱり寂しい」などと言い出たり、色々と現実的な課題が襲ってくる頃でもあるはずです。
こうした段階を、私はリモートワークの幻滅期と呼んでいます。
この幻滅期をうまく乗り越えなければ、むしろ反動で「やっぱりリモートワークはダメだ」となってしまいかねません。それは非常に残念なことです。
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リモートワークで高いパフォーマンスを発揮するチームになるまでに5つの段階があると考えています。それは、IT業界のハイプ・サイクルを参考にしたもので「黎明期」「流行期」「幻滅期」「回復期」「安定期」です。(注:実際のハイプ・サイクルの考え方とは少し違います)
黎明期の段階でのリモートワークは、まだまだ懐疑的な人が多く「IT企業だから出来るんでしょう」「ベンチャーだから出来るんでしょう」「大企業だから出来るんでしょう」と言う人たちが多くいる状態でした。リモートワークにする危機感がない状態であれば、それでも良かったかもしれません。
次に、リモートワークに取り組む企業や人が増えてきて、一定数のうまくいく人たちが出てくることで流行期に入ります。技術的には、Zoomなどテレビ会議を始め、何も問題ないほどに整っていたので、やってみる機会がなかっただけです。それが、今回のきっかけにやってみた結果なのでしょう。
少し冷静にみると、アーリーアダプターな人たちがリモートワークに取り組むことで、リモートワークの良さを実感しつつ、自分たちなりの様々なノウハウを提供したりしているのが今の状況です。リモートワークに過度な期待を持つ人がいることに危機感を覚えます。
そして、そろそろリモートワーク始めて早ければ1〜2週間くらいで出てくるのが、「気軽なコミュニケーションが難しい」「一人で寂しい」といった意見で、がっかりしてしまう幻滅期に入ります。ここで思考を止めてしまったら、あとはオフィスワークに後戻りすることになってしまいます。
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では、どうやって幻滅期を乗り越えていくのでしょうか。気軽なコミュニケーションの難しさ、寂しい気持ちを受け入れるように変化していくべきかというと、決してそうは考えていません。それでは生産性を落としますし、人間として不自然でメンタルもやられてしまいます。
そうではなく、リモートワークの前提を崩すことなく、オフィスでやれていたようなコミュニケーションや人間関係を、どうやって再現していくのか、ということに試行錯誤していくことに尽きると考えています。
オフィスで気軽にできていたコミュニケーションは、なぜ出来ていたのか?そこから考えましょう。物理的に近くにいたことが理由なら、それはどういう原理だったからか考えましょう。逆にオフィスに出社していたからといって、まったく普段から話してない人には気軽に相談はできないはずです。
オフィスに出社すればいいと思考停止さえしなければ、リモートワークでも気軽なコミュニケーションを実現することはできます。
たとえば、お互いのことを知り合う機会を作ったり、普段から雑談しあえるような関係にしたりすることで、仕事のコミュニケーションもうまくいきます。
では、雑談などを通じた人間関係の構築はオフィスにいないとできないのでしょうか。そんなことはありません。たとえば私たちは全社員リモートワークですが、ザッソウ(雑談・相談)を大事にして、実現できています。
そして、これは「リモートワーク寂しい」問題を考えることにも通じます。
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リモートワーク始めたばかりの方は「リモートワークだと集中できる」ということをメリットにあげる人が多くいます。オフィスにいるより割り込みもなく、会議もないし、静かな場所で集中して仕事ができる、と。
これは、私からするとリモートワークのメリットではないと考えています。というのも、集中できないのはオフィスだからではなく、割り込みや会議が多すぎる組織なことが問題だからです。
オフィスにいても工夫することで集中できるようになります。どこかの会社は「集中タイム」といって一日の数時間は静かに働く時間を設けているらしいですね。また、無駄な会議が多かっただけで整理すれば良いのです。工夫次第でリモートワークしなくても集中できます。
それを「リモートワークのおかげで集中できる」と言ってしまう人は、1週間もすると間違いなく「一人で働くと寂しい」と言い出します。そりゃそうでしょう。その点は表裏一体です。
そこでオフィスに行くべきだ、なんてのは思考停止です。逆にオフィスでも集中するために誰とも話さないでいると寂しさを感じるでしょう。周りに人がいるのに、誰とも話さないなんて余計に寂しい。。
仕事をしていく上で寂しさを感じないためには、チームで働くことが大事です。そしてチームで働く上で、本当に大事なことは「ちょっといい?」と気軽にいつでも相談できることです。
すなわちリモートワークであっても、チームで働くことを実現するのです。
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チームで働くのですから、多少の割り込みは仕方ありません。むしろ仲間からの相談に対応し、逆に自分も気兼ねなく相談する。そうしてワイワイと対話しながら目標に向かって働くのがチームです。
もし集中したいならチーム全体で集中タイムを作るとか、集中してるときは周りからみてわかるようにするなど工夫すれば良いのです。これはオフィスだろうと、リモートだろうと関係ありません。
リモートワークを始めると、多くの人が「リモートワークは特別な働き方」で「ソロワーク」だと勘違いしてしまいます。それは、オフィスでやっていたチームでのコミュニケーションをしないからです。
リモートワークはソロワークではありません。そもそも、ソロで働くかチームで働くか、という軸と、オフィスで働くかチームで働くか、という軸は別のものです。2軸に分けて考えてみることが大事です。
チームで働くのであれば、お互いの強みやパーソナリティを知ることなどのチームビルディングが必要で、それは共通の目的をもった仕事を一緒に達成に向けて力を合わせることで成立します。
これはオフィスにいても何も変わらない「良いチーム」のつくり方です。
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チームで一丸となって、リモートワークになっても生産性を下げずに、むしろ高めていくにはどうすればいいか、それを試行錯誤していくことこそが、リモートワークの幻滅期を乗り越える方法に他なりません。
どのようなやり方が一番あっているのか、どうすればコミュニケーションがうまくいくのか、それには決まったやり方はありません。何故ならば、リモートワークで乗り越えるのは技術問題ではなく、適応課題だからです。
つまり、既存の方法で技術的に解決できるような問題ではなく、どれも都度ごとに考えて解きほぐしていかなければならない再現性のない課題なのです。だから、ツールや制度だけを検討・導入しても無意味です。
チームで乗り越える適応課題だとするならば、チームの全員で立ち向かわねば解決できません。そのためにチーム全員がリモートワークをするべきです。そうしないと互いのナラティブを理解することができないからです。
いくらリモートワークしていて不便な点を改善したいと言っても、オフィスにいる側に実体験がなければ納得しづらくて、受け入れてもらえません。
リモートワークに取り組んだ最初のうちはオフィスで働いた方が慣れていて生産性が高いように見えてしまいます。それは自転車に乗り始めたのと同じで、練習したり最初のうちは歩く方が早く見えるのと同じです。
リモートワークの幻滅期をチームで乗り越えられたならば、これまで以上に安定した生産性を出すことが出来るようになっているはずです。
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チームでリモートワークという適応課題に立ち向かうときに、様々なツールも試してみたりするはずです。私たちも試しました。
ちなみに。そこでリモートワークを特別な働き方とせず、普通にオフィスにいる良いチームとして働くようにするためには、仮想的にオフィスで働くようにすれば良いのだと考えたのが「仮想オフィス」のコンセプトです。
チームで働くには「場」が必要であり、その「場」とは「時空」すなわち「時間」と「空間」が揃った状態のことを示します。時間は働く時間帯を揃えることで解決し、空間は物理的な家屋や部屋でなく、仮想空間であっても良かったのです。仮想オフィスで同じ時間帯に働くからチームになります。
例えば、以下は私たちが使っている仮想オフィスのRemottyです。私たちは、仮想オフィスで働くことでチームの働き方を再現しました。もちろん、それ以外の様々な適応課題に取り組んだ結果ですが。
リモートワークに取り組み始めて気付くのが、多くの人が「オフィスで働くこと」と「通勤」を切り離せずにいることです。オフィスという過去からある常識を前にすると、人は思考停止になってしまうものだと感じます。つくづくパラダイムシフトとは難しいものですね。
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さておき。リモートワークの幻滅期に入った皆さんへ。もしかすると、いや、もしかしなくても起きている多くの問題は、それはリモートワークのせいではなく、チームビルディングの問題や、そもそも元からあった問題だった可能性が非常に高いです。
それで「やっぱリモートワークはダメだな」ってならないように、リモートワークをスケープゴートにしてしまわないように、「チームを見直す良いきっかけだな」と考えて、真摯にチームとマネジメントに向き合って頂ければと切に願います。
その際の参考になればと、改めて拙著「リモートチームでうまくいく」の全文公開を紹介しておきます。
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あとがき:全文公開の裏側
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ソニックガーデン代表の倉貫義人が、ソフトウェア会社を経営する日々で考えていることを届けていくマガジンです。ソフトウェアを扱うエンジニアの思…
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