君の一番の長所だね
「そこが君の一番の長所だね。」
どこにでもあるチェーンの中華料理店。
いつものお馴染みのメニューをつつきながら、どうしてか私が口にしていたのは、これまで隠し続けてきた弱音だった。
あの人はここがすごい、この人のここを尊敬している。
それに比べて私には何もない。
どういった話の流れだったかは忘れてしまったけど、賑やかな店内に似合わず漏れた寂しい本音を前に、向かいの彼女はにこやかに冒頭の言葉を口にした。
人のいいところばかり見えちゃうなんてすごいことじゃない。
そこには何の気遣いも気負いも、忖度もない。
さらりとナチュラルなその肯定は(恐らく肯定ですらないのだろうその率直な意見は)、静かに私の中へ満ちていく。
そうか…そうかも。すとんと肩から力が抜ける。私にしては驚くほど素直に、あっさりとそれは腹落ちした。
今でもその時の、一皮剥けたような心地を私は鮮明に覚えている。世界が色付いて見えるというのは、ああいう時にこそ使う言葉なのだろう。
自信をなくしている人のことは励ませばいい。
私はずっとそう思っていたし、もし私と彼女の立場が逆だったならきっとそうしていただろう。そんなことないよと慰めていたはずだ。
でも私だって、本当は励まされたいわけではなくて。
だからこそぽつりと漏れてしまった本音に、他者としての距離から平静に返してくれた彼女に、私は心底救われた。
彼女はそうして新たな視点をくれただけではなく、他者へ寄り添い共感することが良いコミュニケーションだと思い込んでいた私の、凝り固まった価値観をがらりと変えてくれた。
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