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27章 玄関の柴犬

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 金木犀の甘く爽やかな香りが漂いはじめました。秋ですね。
蔵子様、お変わりありませんでしょうか。
「新わくわく片づけ講座」を受講してはや三月。
ようやく、モノが減ったと実感できるようになりました。
このように自宅はある程度片付いたので、次は義父のところがなんとかならないかと思いました。

 義母が五年前に逝き、一人暮らしの義父は幸いなことに元気で、合唱団や将棋クラブに通っています。
花を育てるのも好きで、通販で種や球根を取り寄せて植えています。
 先日、行ってみると、玄関に柴犬がいます。
といっても、置物ですが、センサーで、近寄ると吠えるのです。
義父に言わせると、春ごろに洗面所の窓のガラスを割られたことがあったそうです。
幸い、泥棒が侵入した形跡はなかったようですが、そこで、柴犬を置くことにしたそうです。

 確かに、生きている犬を飼うのは散歩も必要ですし、八十を越えた義父にとっては置物のほうが良いと思います。
 ここまでは良かったのですが、家に入ると、オウムや猫や動物の置物があちこちにあります。
廊下には亀の親子までいました。
センサーで鳴くのもあれば、話しかけると応えるものもあります。
(亀の親子は鳴かずに、のそのそ動きます)
ショックでした。
義父はこんなに寂しかったのだと思いました。

 事情を聞いてみると、種や球根の通販のカタログに動物の置物も載っていて、かわいいのでついつい買ってしまったそうです。
捨てろともいえず、また、一緒に暮らそうとも言い出せず、出された麦茶がやけに苦く感じました。
 蔵子さんが講座の中で、自分の家を片付けるより、親の家を片付ける方が大変だとおっしゃっていた意味がやっとわかりました。
また、無理に片付けるなとおっしゃっていましたので、そのままにしています。

 しかし、このままでいいのかという思いがついてまわります。
そこで、手紙を書くことにしました。
アドバイスをいただければ幸いです。
付け加えると、義母の荷物もまだ片付いていません。
よろしくお願いします。
十月五日                   
              大南君江


大南君江さま

 お手紙ありがとうございました。
お元気でお過ごしとのこと、何よりです。
講座を受講いただいて、もう三カ月が過ぎたのですね。
ご自宅が片付いたのは良かったですが、お義父様のことでお悩みとのこと、お察し申し上げます。
 アドバイスを、ということでしたが、このような場合、これという決め手はありません。
ご本人のお考えもありますし、時期にもよりますしケースバイケースです。
また、思い出を大切にされている場合もあります。
難しいこととは思いますが、ゆっくり時間をかけてお話をされ、少しずつ片付けを手伝われるのがよいかと思います。

 できれば、思い入れの少ないものから始められるのが無難かと思います。
これも、人により様々ですので、一概に言えません。
ただ、片付けましょうとおっしゃるのではなく、そのモノがどうして大切なのか、捨てられないのかを聞かれることだと思います。
そうすれば、たぶん、若い時代の話や思い出を話されると思います。
同じことを何度も繰り返される場合もあるでしょう。
しかし、その話はもう聞きましたとおっしゃらずに、聞いてあげて下さい。
できれば、ご主人もご一緒に。

 急がず、それこそ亀のように少しずつとしか申し上げられません。
お役に立つアドバイスにならず、申し訳ありません。
ご自愛くださいませ。

正倉院蔵子

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