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デンマーク🇩🇰視察旅行記(8/n) 「デンマークの教育について」
今回はデンマーク視察旅行記ではありますがちょっと脱線して、デンマークの成人教育機関である「フォルケホイスコーレ」と「民藝運動」の共通点について考えてみたいと思います。
デンマークの教育の特徴
デンマークの教育は、子どもが通う学校も大人が学び直しのために通う施設も基本的に無料です。そもそも「学び」の位置づけが、「勉強のための学び・知識をインストールするための学び」ではなく、「より良く生きるための学び・社会の一員として貢献するための学び」であることが特徴です。
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(図はヒューマンアカデミーWebサイトより)
また、デンマークの義務教育フォルケスコーレ(小中学校)では、日本の学校教育と異なり学習指導要領がなく、デンマークの教育省が定める「共通目標(Fælles Mål)」という学習の方向性を示す指針のみがあり、それをもとに学校や教師が自由にカリキュラムを作成します。
日本の学習指導要綱のように「何年生でこの単元を必ず学ぶ」といった厳格なルールはなく、教師が自由に教科書を選び、場合によっては教師がオリジナル教材を作成して授業をします。(デンマークでは教師になるためのハードルが高く、5年の教師育成学校に通う必要があります。)
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日本のように「全員が一律で同じことを学ぶという教育スタイル」ではないため一見すると学習の効率は低いかもしれませんが、デンマークの教育では個人の特性や学習状況が尊重され、「個人と個人が競争する教育」ではなく「協力と創造性を育む教育」が行われています。
フォルケホイスコーレとは
フォルケスコーレ(Folkehøjskole)は、デンマーク独自の成人教育機関であり、18歳以上の若者や大人が学び直しをするための学校です。試験や成績評価がなく、個人の関心や社会的課題について自由に学ぶことができます。
全寮制であることも特徴で、寝食を共にしながら多様なカリキュラムの中から自らが選んで学ぶことが出来ます。学費は無料ですがその代わりしっかりと学ぶことが必須で、授業をサボったりすることは出来ないそうです。(そりゃそうだ。)
学ぶテーマごとに様々なフォルケホイスコーレが存在します。
哲学、政治、社会課題
環境・サステナビリティ
芸術、デザイン、音楽
リーダーシップ、コミュニケーション
創造的なライティングやジャーナリズム
フォルケホイスコーレは、19世紀の詩人であり聖職者のグロントヴィが最初に構想し、1884年に最初の学校が設立されたと言われています。
グルントヴィは、エリートによる国家主導の文化だけではなく、また貴族や学者のためだけの教育ではなく、「民衆(Folkelighed)」が自らの言葉と経験を通じて築く文化や価値観を学び、民衆が自らの生活に根ざして学ぶべきだと考えました。
フォルケホイスコーレと民藝運動の共通点
グルントヴィの「民衆の持つ創造力と文化の力を信じ、未来へつなげる思想」を持つフォルケホイスコーレと、1926年 日本の柳宗悦によって始まった「民藝運動」には共通点があります。
民藝運動とは、「民藝(Mingei)」つまり庶民が日常的に使う工芸品の中にこそ、美しさと価値があるという思想で、地方の職人たちの手仕事を尊重し、産業化による伝統の消滅を防ぎ、民藝の良さを広める活動です。
それまで「芸術」はエリートや特権階級が生み出すものとされていましたが、柳はそのような権威主義を批判し、庶民の生活に根ざした手仕事こそが本物の美を生み出すと考えました。
ここでグルントヴィのフォルケホイスコーレと民藝運動に共通点を見出すことが出来ます。つまり、「私たち名もなき庶民が、実際に使うものとして作ったもの(用)、もしくはその活動自体に内在する創造力にこそ、美が宿っており、その経験こそが学びであり価値である」ということです。
柳宗悦が始めた「民藝運動」における「今まで価値が見出されなかったものに光を当てる運動」と、デンマークのグルントヴィが提唱した「民衆教育」という「貴族や学者のための教育ではなく、民衆が自らの生活に根ざした学び」は、すごく共通点がある。https://t.co/dqIRLtedRM
— 倉林一範 (@kurabayashikobo) February 9, 2025
まとめ
今回デンマークの教育制度と日本の教育制度を比較していた時に出てきたキーワードに「社会的流動性(Social Mobility)」というのがあります。
「社会的流動性(Social Mobility)」とは、個人、家族、世帯、またはその他の人々のカテゴリーが、社会内の社会的階層の内部または階層間を移動すること。
つまり、個人が住むところ、所属する組織・会社、家族・コミュニティを自由に選択し移動することができる状態を社会的流動性が高いと言い、デンマークは以下の理由から社会的流動性が世界で最も高いと言われています。
教育の無料化により、経済的な障壁がない。
福祉国家として最低限の生活基盤が整っている。
職業訓練や生涯学習の仕組みが発達しており、再チャレンジが可能。
日本も社会的流動性は比較的高いと言われており、特に学歴に関しては20世紀の高度経済成長期には「教育による階層移動」が可能であり、出自や親の職業によらず自分の努力に応じて良い職業を選択することができるようになりました。これは福沢諭吉の「学問のすゝめ」がひとつの要因になったと言われています。
しかし近年では「勉強ができないのは本人のせいだ」という安易な「自己責任論」が台頭し、結果として日本における学歴が「流動性を高める手段」から「格差を固定する要因」になってしまった側面もあります。特に最近では、親の経済力が子どもの学歴や職業に強く影響すると言われており、非正規雇用が増加するなかで、一度低い賃金の仕事に就くとリスキリングやキャリアアップが難しい状況です。
こうした課題を解決する方法として、ノーコードを使ったデジタル就労支援が効果を発揮するのではないかと考えています。今年はこのあたりの活動を進めていきたいと思います💪
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