ドラムサークルのカスタマージャーニー
私はドラムサークルの普及を支援してきました。
ドラムサークルとは、
ドラムサークルの歴史を辿って見ると、「世界のドラムサークルの起源はおそらく記録に残っている音楽の歴史以前にさかのぼる」と現代のドラムサークルを開発したドラムサークルの父と言われているアーサー・ハル氏は述べています。
「人は、太古から集まってなんらかのかたちでリズム的なスピリットを分ち合っていた」
現代的なドラムサークルは、1967年の「サマー・オブ・ラブ(Summer of Love)」(1967年夏にアメリカ合衆国を中心に巻き起こった、文化的、政治的な主張を伴う社会現象)の期間中、サンフランシスコでヒッピーの連中が集まって行ったものが最初だとアーサー氏は言っています。すると現代のドラムサークルの歴史は、たかだか60年弱ですね。
日本にドラムサークルが入ってきたのは2000年です。
楽器メーカーのヤマハはアメリカの打楽器メーカーREMO社の打楽器を輸入販売しています。REMO社は自社製品の販売のために、ドラムサークルに注目し、ドラムサークルの研究開発と普及啓蒙に力を入れています。それを受けて日本では当時のヤマハミュージックトレーディング社がREMO社と提携しドラムサークルを日本に紹介し、イベントを行ったのです。
2004年ヤマハは「ドラムサークルファシリテーター協会」(DCFA)を設立し、ドラムサークルの日本での普及に力を入れました。その活動のキーマンになったのが、パーカッショニストのペッカーさんこと橋田正人さんです。
ペッカーさんは、日本パーカッション界のパイオニアです。日本初のサルサバンド「オルケスタ・デル・ソル」を結成し、ソロ活動やセッションプレイヤーとして、多数のアーティストのレコーディングに参加しています。またペッカーさんは音楽だけでなくメンタルヘルスケアにも力を注ぎ、ドラムサークルの効力に注目し、日本でのドラムサークル普及を始めたのです。ドラムサークルにはサンフランシスコで音楽を学んでいた時にその原点に触れていました。
2010年「ドラムサークルファシリテーター協会」はヤマハから独立して独自の歩みを進めます。ドラムサークルファシリテーターの合宿「ドラムキャンプ」、学校でのドラムサークルを学ぶ「ドラムサークル for ティーチャーズ」、高齢者福祉や障がい者対象のドラムサークルを学ぶ「ドラムサークル for ウェルネス」の3つのイベントを毎年実施してきました。
2020年7月には法人化し、一般社団法人ドラムサークルファシリテーター協会となりました。
一方で、ペッカーさんはドラムサークルによる企業研修の可能性に注目し、株式会社ビートオブサクセスを創業して、研修プログラム「トレーニングビート」を開発しました。
さて私はドラムサークルファシリテーター(ドラムサークル参加者が緊張やプレッシャーから解放されて楽しくタイコを叩けるように働きかける案内人)を対象に『ドラムサークル市場はあるのか? マーケティングができるのか?』というテーマでセミナーを行いました。
ドラムサークル市場はあるのか?
ドラムサークルファシリテーター協会によれば、2018年度に日本全国で協会に所属する主なファシリテーターによるドラムサークル は約3,000回開催され、延べにして9万人の人たちが体験をしたそうです。コロナ禍で大きく減少しましたが、2022年度に約2,000回開催、46,000人の参加まで回復しました。
数字を見るとまだまだ小さいですが、ドラムサークル市場はあるのかと言われれば市場はあります。
ドラムサークルは、イベントなどで家族連れなどが自由に参加できるコミュニティ・ドラムサークル、学校で授業や学校行事の一環で行われるドラムサークル、高齢者施設や福祉施設で行われるドラムサークル、企業で記念イベントやチームビルディング研修で行われるドラムサークルと、応用範囲が多種多様です。ドラムサークルはさまざまな人たちにさまざまな形の価値を提供しており、体験した人からは高い評価を得ています。ですからまだまだ市場は広がると思います。
マーケティングができるのか?
ドラムサークルの難しさは、その価値が体験しないとなかなか伝わらないというところです。
ドラムサークルを進めるファシリテーターは、どういう人たちが対象なのかを明確に把握し、その人たちの課題を知ることが重要になります。そしてその課題を解決するためにドラムサークルがどのように生かせるのかを対象の人たちにどうやって伝えるかが鍵です。
セミナーでは、対象の人の「カスタマージャーニー」を考えてもらい、マーケティング思考を提案しました。
カスタマージャーニーとは、次のようなものです。
対象者の時系列の状況を「出会い(認知)」からスタートして、「興味」を持ち、「申込み」をし、「参加」して体験する、その後はドラムサークルのファンになって「拡散」してくれると5つのステージに設定しました。
カスタマージャーニーマップを作り、ステージに沿って、対象者の行動と気持ちを書き出してみました。
時系列に整理して、ここから対象者の解決したい問題、課題を明確にしていきます。
課題が明確になったら、その課題を解決するために提供できるドラムサークルの価値を明確にします。
ステージに沿ってその価値を伝えるためにどこで何をしたら良いかアイデアを出し合います。これがドラムサークルのマーケティング施策となるわけです。
書き出してみると、まだまだやるべき事は多々あります。出てきた施策の効果とリソースを考え、優先順位をつけて実行計画を作り、着実に進めていくことが重要です。
ドラムサークル市場はあります。マーケティング思考でその価値を広め、普及したいものです。
● リズムに乗せ人々を笑顔に導く/ドラムサークルファシリテーターの仕事
●アーサー・ハル氏インタビュー