【朗読】大下宇陀児「金魚は死んでいた」(1954年)
ことの葉図書館では、主に青空文庫にあがっています、古き良き小説を朗読でお届けしております。今回は最新の第二十六巻の紹介です。
【あらすじ】
殺人事件現場において、担当捜査官の平松刑事は、殺された老人よりも池の中で死んでいた高価なランチュウを残念がっている。
おかしな話だが、彼の金魚好きは事件の解決へとつながっていく。
殺人事件ながら、金魚の話も軸になり、その対比が面白いです。
【大下宇陀児(うだる)とは】
1896年長野県生まれ。1925年に第一作「金口の巻煙草」を発表後、独自のロマンチック・リアリズムのもと犯罪心理や風俗描写に優れた探偵小説界の巨匠として、江戸川乱歩、甲賀三郎とならんで戦前の日本探偵小説の三大家に数えられる。51年『石の下の記録』が第4回探偵作家クラブ賞を受賞、翌年から54年まで探偵作家クラブ2代目会長を務める(初代は江戸川乱歩)66年没。
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僕自身探偵小説というと、乱歩や横溝正史を思い浮かびますが、その乱歩と並んで称賛されている先生とは知りませんでした。
こういう発見が嬉しいですね。
【作家と作風の関係】
当然読書は作品の内容を重視しますが、作者の人生と作風(作品)の関係にもぜひ注目して頂きたいです。
例えば、太宰治の人生は波乱万丈、自ら死を選んだ作家ですが、
作家人生初期の頃は、実家からの勘当、芥川賞落選、精神病院送り、薬物乱用などさまざまな困難を経験したこの頃の太宰は、破滅的な小説を書きました。
作家人生中期になると、それまでの生活を見直して、再出発をします。
自己破壊的な性格とは打って変わって明るく健康的な作品ものになります。有名な「走れメロス」はこの頃の作品です。
なんか納得しちゃいますね☺
作家人生末期では、戦後、人間不信、社会への絶望はますます深まり、この時期に「人間失格」を執筆します。そして、39歳の誕生日を迎える1週間前、太宰は愛人と入水自殺を遂げました。
いかがでしょう?作家の人生と作風がリンクしていると思いませんか?
さて、今回の大下宇陀児は「一個の人間像を描く」という「ロマンチック・リアリズム」を提唱し続けました。
推理小説であるとともに戦後風俗小説ともなっていきました。しかし、この作風は、江戸川乱歩からは、「探偵的興味を犠牲にした風俗小説では不満である」と批判されました。しかしその後も宇陀児は、風俗小説手法をとり、トリックの手法を捨てています。
宇陀児は自作品について、トリックや意外性や謎がないことはないが、そういうものを特に強く浮き上がらせることを、時にむしろ恥ずかしくさえ思ったと語り、「一面、恥ずかしく思うことを、私は自分のよりどころとする、小さな誇りともしたのである」と語っています。
日本敗戦後、宇陀児は激しい虚無感に身を置き、なかなか創作意欲が働きませんでした。そして、宇陀児は敗戦のときに一家自決を決意し、青酸カリを用意したといいいます。ものは試しと金魚鉢にこの青酸カリを投じたところ、金魚はいっこうに死なず、これを見た宇陀児は自決を思いとどまったそうです。
(Wikipedia参照)
この大下宇陀児の人生を頭の片隅に入れて頂き、今回の「金魚は死んでいた」をお楽しみくださいませ。
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