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電話越しの声
その土地は昔大きな災害でたくさんの人が亡くなった。
日本に住んでいる以上災害とは避けて通れない人生なのだが、その大きな災害がありそのから日数を重ね、平穏とまではいかないがある程度暮らしができるようになった頃の話。
私はそこから離れた所で両親と暮らしていたが、その災害の被害を受けたところに弟が住んでいた。
ニュースで毎日その土地の情報を見ていたものの、どうしても心配だったので電話をかけた。
すると、案外元気にやっているみたいで、どうやらその被害も少ないところにその日たまたまいたらしい。
「本当に大丈夫なの?」
「全然大丈夫。ねぇちゃんたち心配しすぎだって」
「ところで、今友達の家?なんか周り騒がしくない?」
「友達の家だけど、そうかな?音拾い過ぎてるのかも。」
「まぁ、元気ならいいけどさ。ってちょっと」
私がまだ弟と話しているのに電話をお母さんに取られてしまった。私も可愛い弟とはいえ、お腹を痛めて産んだ母親も心配だったんだろう。
そこから母親と弟は他愛もない話をし、私に代わることなく電話は終わった。
「せっかくの弟との電話だったのに、最後ぐらい代わってもよかったじゃん」
「あら、ごめんなさいね。でも、どうせあなたたち明日も電話するでしょうし、今日くらいは譲ってくれてもいいでしょ」
てへっとでも言いたげにお母さんは笑い、先ほどまで用意をしていた料理の続きに取り掛かった。
お母さんの言う通り、私の仕事終わりに学生なのもありつつ、災害で今はまだまともに学校も行くことができないのもあり実質長期休みを強いられてしまい暇を持て余しており、いつも電話がかかってくる。
「ねぇちゃん今何してんの?」
「仕事終わり~」
「今日さ、友達の家で友達が~」
「まだ、友達の家にいるの?」
「ほら、今家にも帰れないしさ」
「まぁそうだけど」
弟の家がある方は被害が多く、運よくその友人の家で暮らせることもありなんだか毎日暇だと電話をかけてくるわりには、いつも騒がしく楽しそうである。
「急とはいえ、ルームシェアもよさそうね」
「まぁ、男同士だし全然楽だよ」
「でも、まだ大変そうだし居候みたいな立場なんだから家事とかしなよね」
「毎日してるって」
弟がいまだに一人暮らしをしていた、またこうやって友達とルームシェアをしていて家事をしているだなんて想像もできないが、私ですら経験していない被災を経験しこうして電話をしているだけで弟が元気になれるならそれでいいやと私は思った。
1週間、2週間と日がたった。
弟との電話はいまだ続いていたものの、ほとんどその日の大きな出来事を聞き、私も何かあれば伝える程度。
通話時間も5分もあれば終わるだろうといった短さ。
同性の仲の良い友達ならこんな通話時間じゃ毎日が足りない。
かといって可愛い弟が、とはいいつつも一緒に暮らしていた時は喧嘩も多かったし、話はするものの友達との方が長いし、女の長ったらしい話は弟はあまり好きではないらしい。
そういえば、最初に弟に電話をかけた時はお母さんは私の電話を奪ってまで電話をしていたが、それ以来電話をしている様子はなかった。
もう心配ではないんだろうか。
いや、心配なはずだろうが以外と淡泊なところもあるのが私のお母さんだ。
ある日の仕事終わりに、いつもならすぐ電話がかかってくるはずの弟からはかかってくることは無くそのまま家についた。
ちょうどいいと思い、お母さんがいるであろうキッチンへと足を運ぶ。
「ねぇ、お母さん」
「あら、おかえり」
「ただいま。たぶん、今日も弟から電話かかってくると思うけど電話しなくていいの?心配じゃないの?」
「そりゃ、心配よ。まぁでも料理とかあるしね。」
「たぶん、もうすぐかかってくるし、今日はお母さんも話せば?」
「そうね。少しだけなら話そうかしら」
そういった会話をしていると、なんてタイミングの良さだろう。
弟からの着信だ。
「もしもし。」
「もしもし、あれ?もう家?」
「あれ、今日は家じゃないの?」
「え、うんそう。よく気づいたね」
「うん、なんかいつもバタバタ騒がしいけど今日は違うなって思ったから」
「外出てるからね」
「あ、今日はお母さんも話すって!代わるね」
数回のキャッチボールをした後、お母さんに渡す。
「元気?」
「まぁぼちぼち」
「まだ家には帰れそうにないの?」
「うーん、そうだね。まだ友達のところかな。そろそろ交通とかもだけど、学校とかも落ち着いてからでもいいかなって」
「そう、でも迷惑かけちゃだめだから早く帰れるといいわね」
なんだ、お母さんも話したかったんじゃないか。
電話を渡すと楽しそうに会話をし、また前みたいにその電話の主である私には最後渡さずに切るのである。
「え、またお母さん切ったの?」
「あら、ごめんなさい。でも、弟もうスーパーに入るからっていってたら」
「スーパーなら、そうだね。騒がしいし私に電話交替されても困るなぁ。にしても、弟っていつも騒がしいんだよね」
「ん?どういうこと?」
そう、やはり友達の家にいるからか毎日いろんな友達も来ていると言ってたからか弟が電話をするのはその友人の家からで毎日周りがざわざわと騒がしいのだ。
「弟いつも、友人の家で私と電話するからいっつも周りが騒がしいの」
「あら、気づいてなかったの?あれ、全部霊の声よ」
お母さんはそう私に告げると、先ほどまで料理をしていたキッチンへと戻っていった。